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●プロフィール●
1941年、大阪府生まれ。1968年、弁護士登録。大阪弁護士会副会長、日弁連司法改革推進センター副委員長などを歴任。市民オンブズマン代表委員、市民グループ「見張り番」代表世話人など、幅広い市民運動に関わる。大阪府架空接待住民訴訟、大阪市ヤミ手当返還訴訟など、多くの行政訴訟を手がける。
著書に『実践的市民主権論?市民の視点とオンブズマン活動』(花伝社)など。大手前法律事務所所長。http://www.otemae-law.org/(大阪市の問題への意見もホームページより受付中)
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架空のカラ残業、ヤミ年金にヤミ退職金、不透明な福利厚生制度、etc……。昨年暮れから連日マスコミを大きく賑わした一連の大阪市の職員厚遇問題。その調査解明のため市当局が2005年4月に設置した「互助連合会給付金等調査委員会」の委員長に。長年市政の監視活動を続け、多くの行政裁判の相手方として闘ってきた、いわば市にとって“敵方”の弁護士が就任するという異例の起用が行われた。辻公雄……日本初の「市民オンブズマン」を作った弁護士である。
■委員長を引き受けた経緯は?
大阪市の大平光代助役から予告なしに突然電話がかかってきて、委員長への就任を頼まれたんです。当然、驚きましたけど、大平助役が「この人事は秘密で、ほかの人に漏れたら潰される。今晩即決して、明日発表じゃないとだめなんです」と言ったので、その場でOKしました。あの彼女がそこまで言うなら、賭けてみようかと思ったんですわ。
彼女とは同じ大阪の弁護士仲間だし、犯罪被害者支援の活動などで一緒になり、以前から知ってました。少年事件などでよく頑張っていて、頭がいいし決断が早い。まあ弁護士を長いことしてないからええんですわ。長いことしてたら、ああはいかん(笑)。
■オンブズマン運動の仲間からは「役所側に取り込まれる」「免罪符にされる」と反対の声もあったと聞きますが。
その危険性は十分あります。まあ、私自身が取り込まれることは絶対にないけど、知らん間に政治的に利用されてしまったり、いつの間にか巧妙に潰されてしまわないか、警戒はしてます。仲間からは「お前が一番厳しいこと言ってるので、『あの辻をもってしてもこの程度や。ほな、このくらいでええんちゃうか』と市民を思いこませてしまうような、逆手に使われる可能性もある」と言われましてね。こりゃ余計に中庸なことはできんなあ、キツイことを言って実現させんとアカンのやなあ、と改めて思いましたね。
でもね、本当はそんな大きな権限はないんです。委員会に与えられた仕事は、規定上はヤミ年金・ヤミ退職金とカラ残業手当の解明に関することだけ。まあ、それをたどっていけば全体の体質が現れてくるので、その意味では決して小さくはないんですが。
ただ、それ以外のことも言っていこうと思ってます。「関係ないことも言うで」と宣言したら、「そんなん言わせてええんか」と怒る市関係者もいる。それを聞いて思いましたね。「ああ、僕は嫌われてるんや、これは委員に入ってよかったな」と。喜ばれて歓迎されるようじゃアカンから(笑)。
市側は正面切っての反論はしないが、なんとか事を小さく収めようとは絶対思ってます。例えば資料とかは、自ら進んでは出さない。いくら要求しても、「ない」とか「どっかいった」とか言う。あるとき私が、ちょっと変わった書類の提出を要求してやったら、「それは先生に与えられた権限とどう関係あるんですか」と言いよった。こっちも「関係あるんじゃ!」と言ってやりましたけどね。
それに象徴されるように、やっぱり行政側は外部委員の言いなりにはならない。私らが辞めたら、また元に戻ってしまう。それに対しては、きっちりと制度を作ってしまうつもりです。もう後戻りできないように。
■ホームページなどで、広く市民からの意見や通報の協力を求められましたね。
今まで200件以上が寄せられました。職員労働組合のヤミ専従職員の問題とかは詳細で、実名も出しており、市の委員会でのヒアリングなんかよりよっぽどよくわかります。公務員からの内部告発も多く、正義の告発者を守る公益通報制度なども必要だと感じます。
市民の公務員批判の声も多いんですが、私は安易に給料を切り下げることがいいとは思いません。最近の国の政策は地方自治体を締め付ける一方なので、その根本の問題点も明らかにしないといけません。市民に情報を公開して理解を得た上で、待遇をきちんとした方がいい人材が集まります。そして自治体職員がプライドを持って、やりがいを感じて働ける環境が何より必要です。
市長を辞めさせるリコール運動の動きもありますが、私はあまり気が進まないんです。もし選挙で改革派の新市長が誕生しても、そう簡単には変わらないでしょう。役所の守旧派は今は息を潜めているが、ほとぼりがさめてしまえばまた息を吹き返そうとしているので、問題の根は奥深いし解決は難しい。マスコミや市民が、かつてない関心の高まりを持って市役所を包囲している今が、千載一遇のチャンスなんです。
■日本で初めての「市民オンブズマン」を立ち上げられました。
本来の「オンブズマン」とは、西欧にあった行政機関への苦情処理や行政監視活動を行う公的な制度です。私たちが運動を立ち上げる時に仲間の弁護士が「オンブズマン」の名前を提案し、西欧と違って市民主体の活動なので、私が「市民」をかぶせて名づけたのが始まりです。
80年に日本初の市民オンブズマンを大阪で結成し、82年に起きた大阪府水道部の架空接待問題を追及。84年に制定された文書公開条例を活用して起こした情報公開訴訟は、地裁・高裁・最高裁まで勝訴しました。市民オンブズマン運動はその後全国に広がり、94年には全国市民オンブズマン連絡会議が設立され、現在全国に82あるグループが年に一度、500人以上の参加者を集めて全国大会を行うまでになりました。
今では長野、徳島、鳥取県などで、オンブズマンの弁護士が行政に請われて委員に就任し活躍するケースも増えています。改革派で知られる高知県の橋本大二郎知事からはこう言われました。「市民オンブズマンは我々の敵だ。しかし必要な敵だ」と。市民オンブズマンが毎年、全国の主な自治体について「情報公開度ランキング」を行ってるんですが、あれは面白いですね。市民が客観的な指標に基づき、行政の通信簿を付ける。ちなみにランキングの政令指定都市の部で、大阪市はずっと最下位なんです。
ここまで運動が広がった理由としては、旧来型の運動のように反対や要求だけでなく、監査請求や住民訴訟などを駆使して、制度に則って闘う手ごたえを実感したからです。それまでほとんどカビの生えた存在だった住民訴訟の仕組みを、現代版として市民運動に生かしたのは私が第一人者やと思ってます。まあメンバーからは「辻さん、普通は市民運動は長く続けるのが大変やけど、裁判やったら長くかかるから運動も長続きできてええなぁ」と嫌味をいわれましたが(笑)。
■弁護士と市民運動の関わりについては。
あんまり明確な目標があって弁護士になったんやないんです。でも、今から思うと弁護士しかなかったかなあとも思います。みんなからは、「お前みたいに好き勝手にやってるやつはおらん」と言われますね。確かにサラリーマンの友達は、なかなか言いたいことも言えてないようですし。
司法制度改革で、司法試験合格者がつい数年前まで年間500人程度だったのが、これからは5倍以上の3千人に急増し、弁護士同士の経営競争も厳しくなって食っていくのもしんどくなります。そうすると、人権活動や市民運動など、金にならない分野に携わる弁護士がいなくなるんじゃないかと言われてます。昔は司法修習生の8割は、何らかの社会活動をしたくて弁護士になってました。でも最近は、8割が企業の法務担当を希望する。完全に逆転しています。でも、絶望はしていません。少年事件などは企業法務の弁護士もかかわっている人が多いんです。私は、弁護士会は日本有数のNGOやと思ってますから。
また、弁護士仲間に呼びかけて、人権活動や弱者支援の訴訟をサポートする「ひまわり基金」を95年に設立しました。約200人の賛同者から1500万円の基金を集め、毎年地道に活動している団体に寄付をしています。NPOの方々も、弁護士をもっとうまく活用していただきたいですね。例えば市民グループ「見張り番」の松浦米子さんなんかは、以前は市民活動を経験したことのない専業主婦でしたが、今では私ら弁護士をあごで使てます(笑)。
まあ、市民運動や行政相手の訴訟とかしてたら、役所や大企業からの顧問の依頼は来ません。これはもうあきらめなアカン。でもね、これはあんまり大きな声では言わんようにしてるんです。若い弁護士に「辻みたいに市民運動ばっかりして、顧問先なくなって貧乏になったら困る」と思われないように(笑)。
だから私は、家は大きなのを建てたんです。「市民運動やってたら、こんなでっかい家建てられるんやで」って、言ってやるんですわ(笑)。
■大企業や行政相手に市民が裁判を起こしにくくなる裁判費用の敗訴者負担問題や、イラク戦争への自衛隊派遣反対訴訟など、関わっておられる運動は山ほどありますが、今後は?
ほんまはね、みんな辞めてもうゆっくりしようかなと思うときもあります。でもそうしても、きっと満足できんでしょうね。回遊魚のマグロのように、一生泳いでないと。まあマグロの人生もええかなと思ってます。
でもやっぱり、最後は憲法ですね。憲法改正を政治側があきらめたら、その時こそ普通の生活に戻ろうと思ってます。憲法を守る署名活動も最初は逡巡していたが、もう先も長くないし、煙たいと思われても構いません。遠慮せずにやるべきことはやらな、と思ってます。
大阪市の問題でテレビのインタビューを受ける時でも、イラク戦争の憲法違反の問題なんかも必ずちょこっと触れるんですよ。でもやっぱりカットされてなかなか放送されないから、今度は生放送の時に言ってやろうと思ってます(笑)。
インタビュアー・執筆
編集委員 大門 秀幸
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