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市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2005年7・8月号(通巻407号) 目次に戻る
より遅く、より近く、より楽しく
市民の「スポーツ」が切り拓くもの

トップアスリートの躍動する身体は、人間の身体がこれまで到達した限界に挑戦し、その限界を切り拓く。
より速く、より強く、より高く、より遠くへ…
こうして引き寄せられた限界の数々は「記録」という到達指標によって、わたしたちの「あたま」で想像できるレベルに、ようやく落ち着く。
わたしたちが何かに対して行動をおこすとき、「あたま」で考え、納得した後の行動だけでなく、その動機の根っこには「『からだ』が勝手に動いた!」という体験が確実に存在するはずだ。
こうした「からだ」、しなやかでバランス感覚に満ちた「からだ」を育むのは、トップアスリートの身体を鍛え上げるスポーツとは、ちょっと違う。
これまで、体育の授業や、競技スポーツ、企業スポーツでは、身体の鍛錬や、記録の更新という目標を追い求めてきた。
しかし、スポーツ本来の意味である「楽しい感情の発散」や、身体を動かすことの面白さ、新しいルールを共に創り上げることの創造性に根ざす市民が立ち上げるスポーツ活動は、より自発的な市民の「からだ」を育み、わたしたちを新たなスポーツのスタート地点に立たせてくれるだろう。
そんな市民のスポーツが切り拓く、それぞれの場面を追いかけた。


1.ブラインドランナーの伴走を通じて
   〜1メートルの“絆”が教えてくれたこと

大阪ボランティア協会職員 中島清孝

コラボレーション としての協走
長距離走者の孤独は、 伴走の中で解きほぐされる

参加のきっかけ

 私は幼い頃から走ることが好きで、高校時代には陸上競技部に所属し、中距離を専門にクラブ活動に励んだ。その後、大学時代には、競技から遠ざかったが、就職して再び走りだした。地域の駅伝大会からフルマラソンまでこなし、冬場のロードレースシーズンになると、毎日練習に励んだ。そんな私もここ二、三年は故障続きで泣かず飛ばず。いよいよ陸上からは足を洗うころかな、と考えていた。

 しかしそんなとき、知人を通じて、ブラインドランナー(目の不自由なランナー)の伴走会に誘われ、不安を抱きつつ参加した。

ブラインドランナーのチーム「わーわーず」

 私の練習初参加は二〇〇四年十一月。長居陸上競技場を拠点に活動する「わーわーず」というチームの練習会だった。「わーわーず」という名前は、リング(伴走ロープ)の「輪」と平和の「和」(仲間たち)に由来している。「みんなでわいわいがやがや賑やかに」という意味と「人の輪を広げ平和な世の中を」という願いが込められている。一九九九年から活動がはじまり、現在メンバーは視覚障害者四十三人、伴走者五十人。メンバーにはアテネ、シドニーのパラリンピック出場者から、純粋に身体を動かしたい人までさまざまだ。それぞれが自分の目標に向かって身体を動かすことを楽しんでいるようだ。

実際に伴走して

 伴走をするときには必ず使用する大切な道具がある。それがブラインドランナーと伴走者を結ぶ長さ一メートルの輪状のロープだ。そのロープをお互いに持ちながら共に走る。いわば、お互いを繋ぐ”絆“だ。このような道具を使用することすら知らなかった私は、参加する前には何か特別な技術が必要なのではないかとか、何か特別なことを話さないといけないのではないかとか、自分の現状の走力で役に立てるだろうかとか、不安が大きかった。

 しかし、そういった不安は一緒に走るうちに消えていった。何も特別な技術は必要ないし、世間話などをして自分が退屈しないようにすればよいのだと気づいた。走力についても自信がないならスピードを落としてもらうように頼めばよい。実際、初参加した日は、フルマラソンを三時間前後で走破する選手のパートナーになってしまったため、私の方が先にばててしまい「スピードを落としてください」と頼んだ。一緒にロープを持って走っているので、一方が無理をすると共に転倒する危険性もある。無理な時にははっきりと意思表示することも安全に走るうえで大事なことだ。

 それから、練習会に参加するようになって、数人のランナーの伴走を務めさせてもらったが、身体のサイズはできるだけ同じくらいが動きやすいこともわかった。あまりにも体格差がありすぎると、なかなかリズムが合いにくいこともある。ブラインドランナーも同じように感じていることだろう。

 伴走をしていて困るのは、小さな子どもがブラインドランナーの走路をさえぎることだ。道路はみんなのものだが、こんなときには親が子どもにランナーの邪魔にならないように注意をしてほしい。接触すると本当に危険なので気をつけてほしい。

伴走者が留意すること

 伴走者は何も難しく考える必要はないが留意事項もいくつかある。

 まず伴走者が最も注意すべき点は、安全面だ。とにかくブラインドランナーを危険な目にあわせずにゴールまで導くこと。これが最も大事だ。また常に声をかけること。具体的には、今何キロ地点を走っている、十メートル先を右に曲がる、道路に凸凹がある、急な上り坂(坂道の始まり、終わりを知らせる。これが大事!)などを早めに知らせて心の準備を促すとランナーは走りやすい。

 それから多くの人が往来するような場所で練習する時には、ランナーの集団が猛スピードで脇を通り過ぎたりするので、そんな時にはランナー接近中など状況を伝えてあげるとなおよい。

 それと自分の調子がよいからといってブラインドランナーより先を走ったりせず、真横かやや後ろに位置するようにする。左右どちらを走るかはランナーの希望に合わせる。主役が誰かを忘れないことだ。要はランナーの目に徹し、同時に不安を取り除く手助けをするということだ。

 また私が伴走時に留意していることは、ランナーにできるだけ気持ちよく走ってもらうこと。そのためにできるだけ声をかけ、相手の疲労度を確認し、リラックスして走ってもらえるように気を配ることにしている。特に初めて伴走するランナーとはできるだけ話をして少しでも私のことを理解してもらえるように工夫している。そして走っているうちにリズムがよくなってきたら、そのリズムをできるだけ維持できるようにする。この時に余裕があれば、足の動き、手の振りを合わせるようにする。給水についてもこまめに摂取するようにして決してランナーの身体に負担をかけないように気をつけている。

 とはいえ何も難しく考える必要はない。走ることが好きな人、一人ではなかなか練習ができないという人は、自分の練習だと思って参加してみるのもいい。まずはやってみるということが大事だ。

最後に

 ブラインドランナーは視覚の面でハンディを背負っているだけで、他の点は健常者と何ら変わらない。たまたま自分ひとりで練習することが困難な状態にあるだけだ。だから練習する機会さえあれば記録を伸ばす選手もいるだろう。また本当は走りたいのに人の手を借りるという点に負担を感じる人もいるかもしれない。でも身体を動かしたい気持ちのある人はどんどん参加するべきだ。そうすることで心も豊かになり、自分自身の世界も広がるだろう。

 健常者の方で伴走に関心がある人は、難しく考えず、とにかく気楽な気持ちで参加してみてほしい。意外に簡単にできることに気づくはずだ。そしてそのことが多くの人に伝われば伴走者が増え、その結果、ブラインドランナーも増えるかもしれない。

 伴走をしていていちばんうれしいのは、ランナーの方から「走りやすかったです」などの感謝の言葉をもらうときだ。私の場合、自分の趣味を兼ねて練習会に参加しているので、ランナーのためというよりも、自分自身のために参加しているといったほうが当たっているかもしれない。でも、やはり「走りやすかったです」…そう言われると心が弾む。

 元来、走ることは孤独なものだ。しかし、伴走というのは一人ではない。ブラインドランナーと伴走者とで作り上げる一つのコラボレーションだ。伴走を通じて、協調性や思いやりといったことの重要性を改めて感じている。私としてはこれからももっと多くの人に走ることの楽しさや身体を動かすことの楽しさを知ってもらえるよう、微力ながらさらに努力していきたいと思っている。


(残念ながらインターネットではここまでです。あとは本誌でみてください!)



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Volo(ウォロ)は大阪ボランティア協会が発行する 市民活動総合情報誌であり、オピニオン誌です。
『月刊ボランティア』創刊1966年。『Volo(ウォロ)』と誌名を変更して2003年新創刊。一貫して「市民が主体的に関わることの大切さ」を伝えてきました。分野・セクターを越えた社会的課題に市民がいかに関わるかを独自のアプローチでタイムリーに発信しています。