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市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2004年5月号(通巻395号) 目次に戻る
これからは、ボランティアを受け入れているかどうかが
その病院の良し悪しを決めるリトマス試験紙に
なるかもしれません


諏訪中央病院 保健医療福祉管理者 鎌田 實さん
No.202

●鎌田 實さん・プロフィール●

1948年、東京都生まれ。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院(長野県)に赴任、地域医療に携わる。1988年、同病院院長に就任。現在、諏訪中央病院は地域医療のモデル病院の一つとされ、利用者・視察者が絶えない。1994年、チェルノブイリ原発事故の汚染地域での医療救援活動により、2000年にはベラルーシ共和国大統領よりフランチェスカ・スコーリヌイ勲章を受章。著書『がんばらない』がベストセラーになり、西田敏行・主演でテレビドラマ化。今秋、『がんばらない2』がTBSドラマになる。現在、諏訪中央病院保健医療福祉管理者。チェルノブイリ連帯基金理事長。東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部非常勤教授。主著に『命があぶない、医療があぶない』(医歯薬出版)、『がんばらない』『あきらめない』『病院なんか嫌いだ』(集英社)がある。5月に『生き方のコツ・死に方の選択』、9月に『鎌田實・命の対話』(すべて集英社)刊行予定。6月7日NHKテレビ『人間講座』、7月11日NHKラジオ、AM9時から3時間『鎌田實・命の対話』。

患者さんの免疫機能を活性化させる環境が大切

 病院というのは、病気とたたかうための砦なわけですね。病気とたたかう砦の主要な武器はもちろん手術や抗がん剤、放射線治療などなのですが、それだけではなくて、患者さんたちの体の中にある免疫細胞、免疫機能の働きでもあるということがだんだん分かってきたんです。免疫機能を活性化させて、ナチュラルキラー細胞というリンパ球のある種の細胞がガン細胞とたたかってくれるということが分かってきました。細胞が突然変異を起こしたときに、ガン抑制遺伝子がしっかりしている人は、健全な細胞がガン化するのを防いでくれるらしいのです。

 だからぼくは、病院づくりをするときに、免疫機能を活性化させるために病院の環境はどうあるべきか、ということを一生懸命考えました。神経免疫学によると、人間はホッとしている時とか、おいしいものを食べた時、いい仲間といいおしゃべりをしたときなどは、免疫機能が活性化されることがわかってきた。だから、嫌なヤツとおしゃべりしちゃいけないんです(笑)。

 たとえば、糖尿病の人が身内にいれば糖尿病になりやすい、というのは遺伝子の問題なんですが、ある時点までは全然発病しなかったのに、発病するときをよく観察していると、やっぱりストレスを背負い込んだときに、糖尿病になっている。ガンについても、はっきりした理由は分からないけれど、ストレスとどうも関係している気がします。

 ということは、病院はストレスをすこしでも少なくする環境にするべきなんです。病院で、看護師に管理されたり、医者に命令されたりして、ストレスを溜めたのでは、何のためのクスリや検査なのか分からない(笑)。

 だからぼくは、病院づくりをするときに、ホッとできるような、いい空気が吸えて、素晴らしい景色が見え、職員たち一人ひとりの笑顔がある病院をつくりたいと思いました。また、医師から患者さんに病状の説明が丁寧にされて、何のための検査なのか、何のためのクスリなのか、何のための手術なのかがちゃんと分かる病院をつくることによって、患者さんが安心でき、免疫機能を活性化させられるのではないだろうかと考えました。

ボランティア、市民参加の病院づくり

 できるだけ良い環境の病院をつくるために、予算がふんだんに使えるわけではありませんから、市民の皆さんにお手伝いをしてもらいながら、病院づくりをしてきました。諏訪中央病院にはたくさんのボランティアの人たちが来てくれています。病院の裏庭はハーブガーデンになっているのですが、すべて市民のボランティアが管理をしてくれています。日本の病院というのはたいてい、専門職である医師や看護師が働きやすいようにつくられてしまうことが多いのですが、市民の病院なわけですから、やっぱりいちばんの主役は患者さんであり市民であるべきだと思うんです。

 病気の人だけが病院へ行くというのではなく、市民の病院だから市民の人たちにしょっちゅう出入りしてもらう。そうすることによって、市民の目が病院の隅々にまで行き届くようになる。そのことによって、医師や看護師たちの仕事ぶりや、持っている空気や、笑顔が変わっていくのじゃないかと思います。今、うちの病院では、ボランティアの人たちが自主運営をしてくれています。病院としてはボランティア活動には一銭も予算をとっていません。ぜんぶ自分たちでバザーなどをして、次の年の種代や苗代を稼いで、患者さんたちのためにいろんな花を植えてくださっています。そして、これはボランティアの方たちの心意気だと思うのですけれど、立て札に「どうぞ、お好きな花をお取り下さい」と書いてあります。患者さんたちは自由に摘んで、自分のベッドサイドを花で飾ってよい、ということになっています。

 私は性格がいいかげんなもので、全てお任せしちゃうんですよ(笑)。ボランティアの人にできるだけ自由に動いてもらって、ボランティア自身が自律しておられる。辛い思いをして病気とたたかっている患者さんを中心に考えると、ボランティアがどう理解し、協力し合っていけばいいのか自然に分かってくると思うんです。

 病院の専門職というのは、医師と看護師と放射線技師等が縦割りになっているだけではなく、内科と外科とが縦割りになっていて、内科の中がまた循環器と消化器と呼吸器と神経内科等に分かれています。でも今、本当に日本の病院が良くなるためには、この縦割り型の診療をチーム医療という形にして、みんなで一人の患者さんを支えていくことが重要なんです。ボランティアの人たちもいっしょになって、みんなが患者さんを中心に考えるという基本に戻ることによって、なかなか進まない病院のチーム医療というものが実現できる。市民も患者さんも加わったチーム医療ができてしまえば、日本の医療はずいぶん良くなると思います。

 多くの良い病院が、ボランティアを受け入れています。これからは、ボランティアが入っているかどうかがその病院の良し悪しを決めるリトマス試験紙になるかもしれません。患者さんを縛ったりする悪い病院は、ボランティアを受け入れたがらないですよ。ボランティアが入って、自由にいきいき気持ち良く仕事をしている病院は、隠し事のない良い病院だと思っていいでしょう。

人間はもっともっと理解し合えるはず

 実はぼくも、チェルノブイリ原発事故で汚染されたベラルーシ共和国でボランティア活動をしています。これまでに七十二回、医師団を派遣しました。放射能の影響で白血病や小児甲状腺ガンになってしまった子どもたちを救う活動を十四年してきました。先週、ぼくたちのボランティア・グループが、永井隆平和記念・長崎賞というのを受賞しました。ぼくたちは、この活動をしてきたおかげで、命というものについて多くのことを教えられました。

 ぼくがベラルーシに行くと、たすかった子どもたちとお母さんたちが訪ねてきてくれます。でも、ずっと気になっていたお母さんが一人いました。その人のお子さんは、難治性の白血病のため、抗ガン剤だけではなかなかコントロールできませんでした。それで、骨髄移植をしました。骨髄移植は、全部で九人の子どもに行なって八人が元気になったのですが、そのお母さんの息子さん、アンドレイくんだけ救うことができなかったのです。ぼくは、そのことがとても気になっていて、そのお母さんがどう感じておられるのだろう、つらいだろうなと思って、お悔やみを言うために彼女を訪ねる旅をしました。

 会いに行ったら、お母さんが開口一番「感謝しています」とおっしゃるんです。てっきり、高度医療を施してくれたことに感謝する、と言っておられるのかと思ったら、お母さんの口から出てきたのは、日本から来ていた若い看護婦さんに感謝している、という言葉でした。

 アンドレイが骨髄移植を受けたのは二月。北海道より緯度が高いですから、二月はマイナス二十度ぐらいになる、雪と氷の町です。骨髄移植のあと、アンドレイは敗血症になり、熱にうなされ、口内炎ができて、全く食事がとれなくなりました。その時に、日本からきた若い看護婦さんが、何度も何度も「アンドレイ、何が食べたい?」と訊いてくれた。アンドレイは、初めは何も喋れなかったらしいのですが、それでも諦めずにその看護婦さんは「アンドレイ、何だったら食べられるの?」とたずねるんです。アンドレイはついに、「パイナップル」とひとこと答えます。彼は、たった一度だけパイナップルを食べたことがあったらしいのです。

 ベラルーシは北国ですから、パイナップルは輸入品です。でも、それを聞いた日本の若い看護婦さんは、仕事が終わると、マイナス二十度の町へ出て、パイナップルを探し歩きます。ゴメリの町のお店を一軒一軒、「パイナップルありませんか」と言って探し歩いてくれた。そして、やっとパイナップルがあって、アンドレイはパイナップルが食べられた。そのうえ、そのことをきっかけに、食事がとれるようになり、退院できるまで回復します。「私たちはもう治ったと思った」とお母さんはおっしゃっていました。でも十カ月後、不運にも白血病が再発。アンドレイは亡くなってしまいます。お母さんは、「私たちは、家族にとっていちばん大切なものを失ったけれど、あの二月の寒い町へ毎日、パイナップルを探しに出ていってくれた日本の娘さんのことを絶対に忘れません」とおっしゃっていました。

 人間は、宗教や歴史や言葉や民族が違っても、理解し合えると思うんです。二十一世紀になってここ数年の間に、アフガンとイラクで戦争がありましたが、ぼくたちは違いを越えてもっと理解し合えるはずなんです。ぼくは、そのことをこのお母さんの言葉から感じました。この六月に『雪とパイナップル』(集英社)というタイトルの、大人の絵本を出そうと思っています。こんな時代だからこそ、人と人はもっともっと理解し合える、というメッセージをこめた本です。ぜひ読んでいただきたいと思います。

編集委員 吐山継彦

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Volo(ウォロ)は大阪ボランティア協会が発行する 市民活動総合情報誌であり、オピニオン誌です。
『月刊ボランティア』創刊1966年。『Volo(ウォロ)』と誌名を変更して2003年新創刊。一貫して「市民が主体的に関わることの大切さ」を伝えてきました。分野・セクターを越えた社会的課題に市民がいかに関わるかを独自のアプローチでタイムリーに発信しています。