修学旅行で体験学習や訪問学習を取り入れる学校が増えている。 乗馬・牧場体験、はにわ作り体験、藍染めに挑戦、紙芝居体験、
はじめてのアロマテラピー…、なにやらとっても楽しそうだ。
そんな中に、最近、老人ホームで ボランティア体験などというものも、ちらほら登場してきた。
こちらは楽しそう、とは言っていられない。
いろいろな矛盾や問題をはらんだ修学旅行におけるボランティア活動について考えてみよう。
名所旧跡・スキー・田植え・そして…
「ねえねえ、中学の時の修学旅行ってどこへ行った?」
「私は東京」「僕は京都・奈良だったなあ」
「高校は北海道でスキー」「えっ、修学旅行でスキー?」
「私たちは海外でしたよ」「ええっ、公立高校で海外?」
修学旅行の思い出を語り出せば、おのずと出身地や年代がわかる。
ちなみに、スキー修学旅行は一九七〇年代後半に関西を中心に始まり、八〇年代に増えたというから、現在三十代後半の世代に経験者が多い。
公立高校の海外修学旅行は平成に入ってから”解禁“となったので、その経験者はおそらく三十歳以下だ(一九八八年に文部省が「海外への修学旅行を禁止しているものではない」という考え方を示した)。
今年、大学を卒業したくらいの世代では、修学旅行で「田植えをした」という人もいるかもしれない。十年ほど前から、自然学習などの「体験」を重視するようになったからだ。
あと五、六年後、すなわち今の中学生が成人したころには、修学旅行の思い出として「NPO/NGOや福祉施設でのボランティアや体験活動」を語る人々が登場するに違いない。そう、知らないうちに、修学旅行はそんな変貌を遂げているのである。
そしてその影響は、NPO/NGOやボランティアセンター、福祉施設などにじわじわと現れ始め、そのスタッフに新たな課題を提起している。
修学旅行先でボランティア活動?
愛知県の中学校では、修学旅行にボランティア体験を組み込むところが増えているという。例えば、ある中学校の生徒たちは、東京の「あしなが育英会」の事務所を訪問し、新宿駅西口で三時間、街頭募金活動を行った。
岐阜県内のある中学校は、そのホームページで「本年度三年生は、漁村体験として千葉県岩井海岸に(ママ)修学旅行で訪れた時に福祉教育の一環として、海岸の清掃活動をボランティア活動として行いました」と報告している。地元新聞にも大きく取り上げられたらしい。しかし、選択プログラムではなく、生徒全員が参加したようなので、これをボランティア活動と呼ぶことには異論もあるだろう。
同じく岐阜県内の別の中学校は、数年前から「総合的な学習」計画の一環として、修学旅行先の神戸でボランティア活動を行うことにしているそうだ。老人ホームや障害者施設・小規模作業所、ボランティア団体などを、生徒たちがグループに分かれて訪問しているという。その調整をしているボランティアセンターのコーディネーターは「震災学習ということで、災害に関する活動をしている団体へ行くのは分かるが、老人ホームや障害者施設は中学校の地元にもあるのに、わざわざ修学旅行先で訪問する必要があるんでしょうか」と当惑ぎみに語る。学校側の説明によれば、修学旅行中の神戸でボランティア活動をするのは、「震災時に生まれたボランティア精神が、今も人々の心に生き続けているであろう神戸でわずかでも活動させていただくことで、生徒たちがボランティア精神を学ぶことは大変貴重な体験である」ということらしい。
高校でも同様の動きがあるようだ。山梨県のある高校では、修学旅行でタイへ行った際に、四種類のボランティア活動を行ったことを事例報告している。
なぜ、修学旅行先でボランティア活動を行うのか。そもそもそれは、ボランティア活動なのか?
修学旅行生を受け入れるNPO/NGOのスタッフや、彼らの活動先の調整を依頼されるボランティアセンターのスタッフ、またそれを実施する学校の教員の中にも、なにか釈然としないものを感じている人たちが少なくない。
そこで、この特集では、こうした動きの背景や現場での実情をリポートし、課題の整理の一助としたい。
ボランティアセンターの戸惑い
東京ボランティア・市民活動センターの佐藤新哉さんによると、「修学旅行中のボランティア活動先を紹介してほしいという相談は以前から時折あったが、顕著になったのはここ二、三年」という。「総合的な学習の時間」のスタートと連動しているようだ。今年は、八月末ですでに三十校以上から相談が入っているとのこと。内容は「都内の福祉施設に分かれてボランティア体験をさせてほしい」というものが多い。中には、二百七十人が一度に訪問したいという依頼があり、断ったケースもあるという。
学校からの問い合わせも多いが、半分くらいは旅行社からという。「旅行社も学校からの依頼が多いのを見越して、プレゼンテーションメニューとして用意したいのだろう」と佐藤さん。旅行社からの依頼は直接受けず、あくまで学校から連絡をもらい、目的やねらいなどを直接聞くことにしているそうだ。
昔も今も、修学旅行先として人気の高い京都ではどうだろうか。京都市社会福祉協議会福祉ボランティアセンターの徳岡孝之さんによると、やはりここ一、二年、そういった相談は増加傾向という。「活動先として福祉施設を紹介するのは難しい。大人数での視察が可能な団体の情報提供をしているが、それでは学校側のニーズと合わないこともある」と調整の難しさを語る。また、生徒が施設に直接電話をしてくるケースもあるそうだ。施設としては、生徒が一生懸命なのでつい無理をして受け入れるが、学校側の考えを聞くとあいまいであまりに無責任なため、立腹しているところもあるという。
そして、こうした相談と同時に、「旅行中の介助ボランティアを紹介してほしい」という依頼も多く、頭を悩ませているらしい。これは観光地ならではの悩みだろうか。修学旅行に限らず、高齢者のツアーでの介助ボランティアを紹介してほしいと、平気で依頼してくる旅行社も少なくないということだ。
大阪市ボランティア情報センターの松尾浩樹さんも、ここ一、二年、学校の先生や旅行社からの問い合わせが増えているという。「大阪の福祉施設でボランティア体験をさせたいので受け入れ先を紹介してほしい」という内容が多い。「そのたびに『地元でされてはどうですか』と問い返すようにしている。しかし、地域によっては『顔が見えすぎる。しがらみもあり、かえってやりにくい』という答えが返ってくる場合もある」と釈然としない様子。
一九九五年の阪神・淡路大震災で一時は修学旅行生が減ったものの、現在は、震災学習を目的とした修学旅行の受け入れが進んでいるという神戸市ではどうか。神戸市中央区ボランティアセンターの垂井加寿恵さんは、「広島で平和学習を行い、神戸でボランティア活動を行うというプログラムが最近増えているようです。どうして神戸でボランティア、なんでしょうね」と語る。
NPO/NGOでは
では、実際に受け入れ先となる団体での状況はどうだろう。
実は、日本青年奉仕協会(JYVA)では、こうした変化にいち早く気づき、すでに二〇〇一年にアンケート調査を実施している(概要は「JYVA LETTER Up to Date」No.18に掲載されている)。
都内に事務所を構えるNPO/NGOから六十団体を抽出し、ファックスでアンケートを送付。有効回答数は三十五団体。そのうち三十団体が「修学旅行などにおける訪問」を受け入れていると回答した。理由は、「活動内容を理解してもらうため(環境NGO)」「子どもに対するアドボカシーを重要な活動だと認識しているため(国際協力NGO)」などで、「NPO/NGOがもともと持っている啓発的活動内容に合致していることから受け入れているのだろう」(JYVA LETTERより)と分析されている。
ただ、このアンケートの質問は「訪問の受け入れ」の有無であり、「ボランティア活動、体験活動」について聞いたわけではない。したがって、受け入れプログラムの内容は、「作成した資料・パネル・写真集などを用いて、目に見えるもの、自分たちの生活とのかかわりを考えられるように対話形式で行っている(環境NGO)」「なぜ支援が必要かを理解してもらうための体験ゲーム、支援地のビデオ上映、活動紹介など(国際協力NGO)」といったものが多い。
この調査から二年を経過した現在、学校側からの要望や提供プログラムなどの事情も、少し変化しているかもしれない。
アンケートの時点でも、すでに多くの問題点が提起されていた。例えば、「居眠りが多いなど、生徒が来たいと望んでいるとは思えない学校もある」「生徒を団体に丸投げしてしまう教師は困る」「訪問の前に、生徒に何を学ばせたいのか学習計画を立てるべき」「フィードバックがない」「NGOは少ない予算やマンパワーでやっているのだから、経費がかかることを理解してほしい」「資料(教材)作成がNGO側の負担になっている」などの意見が出されていた。
修学旅行と「ボランティア」の関係
ここで、修学旅行とボランティアの関係について整理しておこう。【次表】は三つのタイプに分けて整理したものである。
| |
ボランティアのタイプ |
相談者
(依頼者) |
相談先
(依頼先) |
| A |
旅行先で生徒が行うボランティア活動 |
学校
旅行社 |
ボランティアセンター
NPO/NGO |
| B |
旅行中の生徒を支援する介助ボランティア活動 |
学校
旅行社
親
|
ボランティアセンター |
| C |
旅行中の生徒を支援する観光ガイドボランティア活動 |
学校
旅行社 |
行政の観光推進関係部署
観光協会
NPO/NGO |
タイプAは「修学旅行中に生徒がボランティア活動に参加する」という内容で、今回の特集で焦点を当てているものだ。もっとも新しい動きであり、今後ますます増えると予想される。
タイプB、Cは、いずれも「旅行中の生徒を支援するボランティア活動」である。その中でも、タイプBは「旅行中に介助が必要な生徒に付き添ってくれるボランティアを紹介してほしい」というもので、観光地のボランティアセンターでは、以前から入っていた相談である。出発から解散まで、行程すべてに教員の補助として参加するというタイプと、観光の際に付き添って介助するというタイプがある。前者は養護学校に多く、後者は普通校で障害がある生徒が修学旅行に参加する場合に多い。
とくに後者のボランティア依頼が増え始めたのは、グループごとに分かれて回る「自主見学」が修学旅行に取り入れられたころからだ(自主見学については「Q&A」参照)。学校や旅行社からの依頼に加えて、生徒の親からの相談もあるという。学校によって対応に大きな差があり、中には学校側から親と介助ボランティア(親が確保する)が付き添わなければ、修学旅行に行かせないと言われたという親もいる。事故の心配や、介助する生徒に負担がかかるとの理由から、級友には介助させないという方針らしい。一方で「福祉教育」と称して、校内で車いす介助の体験学習などを行っていることを考えると、疑問を感じざるを得ないケースが多い。このように、タイプBも大きな問題を含んでいるが、それについてはまた別の機会に検討したい。
タイプCは、「旅行中の生徒を観光ガイドなどで支援するボランティア活動」である。例えば、広島の平和記念資料館でピース・ボランティアが展示の解説を行っていたり、沖縄県石垣島では「八重山観光ボランティアの会」が八重山の歴史・文化・自然などについて専門的な紹介や案内をしているなど、各地でさまざまな取り組みがある。これは行政の観光推進関係部署や観光協会、商工会議所などが事務局となって実施している場合もあれば、NPO法人やボランティアグループが独自に実施しているものもある。
タイプCも、生涯学習分野でのボランティア活動への関心の高まりとともに、今後ますます活発になると思われる。また、コミュニティ・ビジネスとして、一定の料金をとり、修学旅行生向けにより有意義なプログラム開発を行おうと模索している団体も出てきている。
なぜ、修学旅行にボランティア活動が取り入れられるようになったのか?
さて、今回の特集のテーマである、タイプAの「旅行中に生徒が行うボランティア活動」に話を戻そう。タイプB、Cに比べると、これは新しい動きといえる。
すでに少し触れたが、やはり「総合的な学習の時間」との関係が深い。「総合的な学習の時間」は小中学校では二〇〇二年度から、高校では二〇〇三年度から導入された。これは、既存教科の枠を超えて、国際理解や環境、情報、福祉、健康など横断的・総合的な課題について、地域の素材や学校の特色を生かしながら、子どもたち一人ひとりの個性や実際の体験を大切にする学習形態、ということができる。
「総合的な学習の時間」の導入にともない、そもそも修学旅行は「総合的な学習」だったのではないか、という見直しの動きが起きた。たしかに、寺社の見学(=歴史、美術)、地形の観察(=地理)、ゆかりの文学作品の学習(=国語)というように、旅行の中で教科を横断する学びが得られるし、自主見学や班別行動では生徒の個性、自主性を尊重しているといえる。
同時に、修学旅行と「総合的な学習」をリンクさせるもう一つの大きな理由がある。それは、完全週休二日制により絶対的な授業時間数が削減されたことだ。その上「総合的な学習の時間」に年間百時間程度をあてるとすると、他の学校行事にしわ寄せがくる。当然、修学旅行の必要性についての議論も出てくる。そこで、修学旅行を「総合的な学習の時間」の一部として位置づけるという方向性が各校で出てきていると思われる。
そう考えると、修学旅行における生徒のボランティア活動の問題は、「総合的な学習の時間」における安易なボランティア体験や施設訪問の問題とほぼ重なってくるのではないだろうか。
実質的な”奉仕活動の義務化“ではないか
ところで、修学旅行のスケジュールの中に、海岸のゴミ拾いや福祉施設訪問などが設定された場合、生徒たちに拒否や選択の余地はあるのだろうか。学校によっては複数の活動の中から選ばせるという方法をとっているところもあるが、それにしても、「ボランティア活動」を全員に「やらせる」ことに違いはない。見方を変えると、これは、かつて物議をかもした「奉仕活動の義務化」そのものではないか。何十年後かに振り返ると、実は「奉仕活動の義務化」が修学旅行から始まっていたなどというのは、悪い冗談にしたい。そういえば、戦前の修学旅行に関する文書には、「訓練」や「労力奉仕」の文字が踊っている。
もちろん、こうしたことを意図して実施している学校はほとんどないだろう。しかし、やはり、修学旅行中に生徒にボランティア活動・体験をさせるのはおかしい。あるいは、それを「ボランティア活動・体験」という言葉で表すのはおかしい。神戸市の中学校教員の中溝茂雄さんも神戸での修学旅行について、「あくまで震災学習であって、ボランティア活動や体験ではないだろう。単なる観光地めぐりでなく、総合学習と体験学習を合体させて行いたいという思惑はわかるが、それをボランティア体験に結びつけるのは安易すぎる」と語る。
積極的に受け入れているNPOでは
修学旅行を「総合的な学習」との関連で計画・実施すること自体は間違っていないし、むしろ歓迎すべきことかもしれない。だからこそ、より明確な視点をもって、プログラムを組み、また訪問学習を受け入れたり、その調整をすることが必要になる。
そこで、ホームページに「体験学習生、修学旅行生の訪問学習受け入れ」をうたっている地球緑化センターの丸井みのるさんに尋ねてみた。センターには、クラス担任か学年主任の教員からの直接相談があり、少人数(一グループ六人程度)での事務所訪問を受け付けているという。丸井さんは「センターでは、生徒が自分の身近な事柄から社会的な課題に気づけるような環境学習プログラムを提供している。ここで学んだことが生徒の地元での生活に生かされるとうれしい。関心の高い子どもが、訪問までにいろいろと質問を用意して来てくれるので充実している」と言う。言葉を換えれば、地球緑化センターの訪問学習が子どもたちにとってより意味のあるものになるように、学校側に働きかけ、協働してきた成果と言えるだろう。
また、積極的に修学旅行生をターゲットにおいた環境学習プログラムの開発をしてきたNPOである環境市民では、「ボランティア体験」ではなく、あくまでも「体験学習」「環境学習」という学習プログラムとして学校側に提供しているという(コラム参照)。
明確な視点で対応しよう
最後に、今回の取材や資料収集を通して明らかになったことをまとめてみたい。
●「ボランティア活動・体験」ではなく、「訪問学習」「体験学習」と言おう。
修学旅行におけるこうした取り組みを「ボランティア活動」と言ってしまうと、義務的な奉仕活動のことになってしまう。ボランティアセンターやNPO/NGOのスタッフは、きちんとした用語を使おう。
●地元でできることは地元でやりましょう。
福祉施設や小規模作業所への訪問など、旅行先で実施する特別の意味がないものは、地元で行うように勧めよう。また、安易な福祉施設訪問は、施設利用者の生活を侵害することにもなることを知らせよう。
●子どもたちにとってよりよい経験となるように、事前に学校側と受け入れ側とで協働してプログラムを作ろう。
通常の「総合的な学習」の訪問と同じである。学習目的を明らかにして、子どもたちの動機付けや事前学習などをていねいに行うようにアドバイスしよう。
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