
●加藤登紀子さん・プロフィール●
1943年ハルピン生まれ。65年、東京大学在学中、歌手デビュー。69年に「ひとり寝の子守唄」、71年に「知床旅情」で日本レコード大賞歌唱賞を受賞。2000年秋、国連環境計画の親善大使に就任。今年3月末に「青い月のバラード」(小学館)のほか、書と詩による「ひとりぼっちはひとりじゃない」(平凡社)を出版した。現在、「花筐―Hanagatami」コンサート・ツアー中で、6月13日大阪市中央公会堂u同15日びわ湖ホール――など
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— 国連環境計画(UNEP)の親善大使に就任以来、昨年の南アフリカのヨハネスブルクでの地球環境サミットなど、世界中の自然と向き合う旅が続いているそうですね。
会議などで気になるのは、大きなお金が動きすぎるということ。環境を守るためにも、お金を持っている国が持たない国に援助することは必要で、メリットもあるんだろうけど、ダメージも大きい。外からの大きな力によって、地道に支えられてきた生活スタイルが変わってしまう恐ろしさを感じます。文化や風土の違いに留意しない援助はかえって侵害になるかもしれない危険をはらんでいるからです。
例えば、モンゴルに植林に行ったのですが、モンゴルはもともと農業のない国で、ジンギス・カンの時代から土を掘ってはいけないとされてきたそうです。そういう文化の国に、農業や植林を持ち込むことも気をつけないといけない。
特に日本からのボランティアの多くは夏休みに集中します。でも、本当はモンゴルで夏の植林に意味はないんです。日本では植林というと、根がくさらないように浅い穴を掘って盛り土をしたりしますが、モンゴルは雨が降らない、渇きやすい土地なので深い穴を掘らないとダメ。夏に五〇センチメートルぐらい土を掘ると、今度は地下一・五メートルぐらいにある永久凍土に影響が出る。この永久凍土は水を蓄える役割があり、地球にとってとても大切なもので、これが溶けちゃうと地下水がためられなくなる。
また、自給できるようにと、小さい魚ばかりだったアフリカの湖にヨーロッパの大きな魚を放したら、もともといた小さな魚を食べ尽くしてしまい、結局、大きな魚も全滅してしまったそうです。日本でもブラックバスが増えすぎて、もともといた魚たちがどんどん減ってしまう問題がおきています。
みんな善意でやっているわけですが、いいことしてるんだから問題ないだろうと思い込みがちです。でも善意の自己満足ではいけないですよね。NPO・NGOの社会的重要性が増しているだけに、よく研究して活動する必要があります。方向性を間違うと大変なことになります。
いろんな国に行って思うのですが、地球には多様な文化があり、古い時代からのスタイルを守っています。これまで「サスティナブル=持続可能」な生活の形は古い社会の中で注意深く守られてきた。それを、一気に近代化してしまえば、地球はたちまち危機に見舞われてしまいます。今のようにお金ばかりが動く世界は怖い。どこかにお金が一極集中し、単一の文化を押しつけることは、とても大きな問題をはらんでいると思います。
ボランティアを通じて、近代生活にない知恵に触れたり、それぞれの地域に根ざしたものを学ぶことが重要なのではないでしょうか。フェアトレードなどいろんな形の交流があっていいと思います。
ラブソングはメッセージの原点です。
— 加藤さんは歌手としても、シャンソンからスタートし、アジアの音楽を取り入れたりとワールド・ミュージックにも取り組まれてきましたね。
音楽家として各地の土着のエネルギーを吸収したいと思ってきました。この五月末に「沖縄情歌」というアルバムを出します。沖縄の人たちとの交流はもう三十年ぐらいになりますが、戦争の犠牲になったり、苦しかったことはなかなか話してくれない。ただ、泡盛と三線、つまり音楽があったからこそ生きてこられた、と。そしてそんな文化を若い人が受け継ぎ、根を張っています。アルバムで「あなたに」という歌をカバーさせてもらったモンゴル800というバンドもそうですが、沖縄から出ていきたくないという若い人がこのごろ多く、人口も増えてきています。日本にもこういう場所があることはすごくありがたいことで、未来への光が感じられます。
沖縄の歌はフランスなどでもすごく喜ばれました。音形というか、言葉の響きが自然で私はとても歌いやすい。沖縄らしさを世界に発信したいと思っています。
— 環境もですが、加藤さんは歌以外でもさまざまなメッセージを発信してこられました。
歌は、すべてメッセージソング。言葉の中にメッセージをどれだけ込めるかということで、ラブソングはメッセージソングの原点です。私の歌が飛び抜けてメッセージ性が強いとは思いませんが、確かにいろんな活動をやってきました。昔は社会活動をするアーティストが少なかったけれど、最近は若いメジャーなアーティストの中にもそうした人が増えてきたと思います。
先日も、今年九月に京都・二条城で行われるイベントに向け「愛LOVE PEACE」という歌を子どもたちと一緒にレコーディングしました。世界中のアーティストとともに、平和を発信しようと企画しています。できればアフガンやイラクの子どもたちも招待したい。
今度のイラク戦争もいつか、するべきでなかったと考える時が来るはず。世界最古の文明発祥の地の一つとして教科書にも出てくる場所で、市民が爆撃を受け、死んでいくのはつらい。私たちの世代にとっては、なぜあのベトナム戦争の教訓を生かすことができなかったのかということでもあります。
音楽家としては、世界にはいろんなお花畑があるように、いろんな文化があっていいじゃないかと思います。そして、子どもたちにもそれを伝えていきたい。私自身は、そうした地球全体を見渡せるような詩人であり、地球人でありたいと思っています。
— 今、あの「団塊の世代」に元気がありません。一言エールを。
景気の低迷でうちのめされている感じよね。もっと酸素を吸って、太陽を浴びて、元気を取り戻さないと。昨年七月に亡くなった夫の藤本敏夫は、千葉県鴨川市で田植えをしたり”自給ごっこ“をやって、土の上で収穫して食べるという素朴な原点をとりもどそうとしてきました。鴨川でのことや、彼との生き方などを「青い月のバラード」という本にまとめましたが、彼の好きな言葉で「マイナスは必ずプラスに転化する」って。経済的に行き悩んでいる今はいいチャンス。
ただ、方向転換しようとすると、一度立ち止まらないと方向は変えられない。でも、今は加速度がついたまま、もがいているという感じ。過去を振り返り、間違っていたことは間違った、正しいことは正しい、ともう少しみんな真剣に評価し直した方がいいのではないかと思います。
— ありがとうございました。
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