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市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年4月号(通巻384号) 目次に戻る
自前のルールを!NPOの個人情報保護

「メディア規制法」との批判を浴び、二〇〇二年秋の 臨時国会でいったん廃案となった「個人情報保護法案」が三月、旧案の内容を一部修正して通常国会に提案された。
法律の対象になりそうなのは、 今のところ営利、非営利を問わず、「数千件」規模の 個人情報データベースを有する民間事業者。
それだけに、多くのNPOから「うちの情報量なら 関係ない」という声が聞こえてきそうだ。
しかし、個人情報保護に関する市民の意識は急速に 高まっており、今後は個人情報を扱う態度そのものが、団体の信頼性を左右する重要な要素になるのは 間違いない。法案をはじめ個人情報保護の システムづくりは政・官主導で進められており、 市民活動の視点が欠けているのも問題だ。
個人情報保護の先駆的な取り組みを紹介しながら、 市民活動分野にとってより良い仕組みを考えてみたい。

「必要」から生まれた規定

 東京都練馬区のNPO法人「練馬ぱそぼらん」は、名称が示す通り、障害を持つ人がパソコンなどの機器やソフトを利用できるようサポートするボランティア団体だ。会のホームページ(http://plaza15.mbn.or.jp/~paso_volun/)では活動内容について、「パソコンの設定や接続ができない、操作方法がわからないなど、障害を持った方々からの『SOS』の声にこたえて、在宅訪問サポートや講習会開催などの支援を、ボランティアでおこなう取り組みです」と紹介している。

 同会は二〇〇二年五月の総会で、「個人情報保護方針」と「個人情報保護規定案」を提案、いずれも承認された。

 一九九六年に任意団体として発足し、二〇〇一年に法人格を取得した同会に、専従有給スタッフはいない。事務局を担い、サポートにあたるボランティア会員は約四十人。どちらかといえば小規模な団体だ。社会福祉協議会などを除き、個人情報保護規定を持つNPOがあまり見当たらない中で、なぜいち早く取り組みを進めたのだろうか。

 理事長の中村由貴子さんは「自然に、というか、会として活動を続ける中で必要に迫られて作成した。会として、個人情報に関する取り扱いのルールが確立しないとサポートができない。サポートを依頼する人の断片的な情報が流れるだけで個人が特定され得ることにも、危機感を持っていた」と話す。

 在宅訪問サポートでは、その気がなくても目や耳に入る情報がある。手に障害のある人から「プロバイダーのパスワードを入力して」と頼まれるケースもあった。同会ではそのような依頼については必ず断るようにしているが、「つい代わりに入力してあげようかと思いがちだし、頼んでいる人も自分の個人情報を守る意識があまりない場合がある。どうしたらいいか議論を続ける中で、『自分たちのサポートに合った独自のルールを作ろう』となった」という。

 事務局担当スタッフやコーディネーターが中心となり、約十人でプロジェクトチームをつくり、総会まで一年間かけて内容を煮詰めた。チーム内にはデータ管理会社に勤めている人や福祉の分野に詳しいメンバーも含まれ、検討項目は多岐にわたった。議論を深める中で得られたのが、「パソボラをするのに本当に必要な情報は何か」という、自省を込めた視点だった。

 「例えばサポート依頼確認書の項目で、障害者手帳の○級という記載は必要なのか。○級という分類や障害の名称より、マウスの操作にはどのような補助機器が必要かという情報や、画面の設定をどのようにすれば本人にとって操作しやすい環境になるかを把握する方が大切。その観点で書類の要・不要項目を見直し、会の書類の書式を改めた」という。

情報管理を一元化

 二〇〇二年十一月、同会は七年間の活動のノウハウを集大成した「パソボラA tо Z」(A4版八十四頁、資料十七頁)を製作。パソコンボランティア養成講座のテキストとして使ったり、他団体の参考に配布している。活動の実際に即した充実した内容と同時に、依頼者に渡す説明文やサポート確認依頼書、ボランティア養成時の注意点など、さまざまなポイントで「個人情報保護」を強調しているのが目に付く。

 特に、「サポート期間が終了したら、コーディネーターと担当者はデータを削除し、確認書の保管担当者一名のみが持つようにします」と明記された、「活動マニュアル担当者編」の「依頼確認書の保管」の項目が持つ意味は大きい。

 保護規定があっても、不要なデータまで個人が持っていれば散逸、紛失の危険が常にある。同会ではコーディネーターのチーフを保管担当者とし、最終的な情報管理を一元化している。また、スタッフの多くが個人でシュレッダーを持っている。中村さんは「書類は手で破くだけでは怖い。機械を使えば完全に裁断されるので、お金がかかっても精神的には楽」と笑うが、これも情報管理に対する意識の高さの表れだろう。

 同会ではこの他、会員名簿の住所に番地を載せない▽入会時に定款や個人情報保護に関する規定など、会のルールを守ることに関する誓約書を求める▽活動に必要ない情報はそもそも扱わない・といった取り決めを徹底している。毎月の定例会の見学希望者とは、事前のメールで「定例会見学時に知り得た、いかなる個人情報も第三者に開示しない」ことを確認し合い、同時に見学者自身の情報も「定例会の資料として保存されるが、本人の許可なく第三者に開示することはない」旨を確約しているという。

 今は情報の保存・廃棄方法や保存期間など最適な運用ルールを決めるため、担当セクションごとに案を出し合っている途中。そのため「方針」「規定」そのものはまだ公開していないが、中村さんは「情報をきちんと管理することで、安心してサポートを受けてもらえる。方針や規定そのものより、会がそれをどのように運用しているのか、書類の項目はどのような視点で入れられたのかを理解してもらえればありがたい」と話す。

社協の取り組みが先行

 東京ボランティア・市民活動センターはホームページ「ボラ市民WEB.」のトップページで、「個人情報の取り扱いについて」という項目を掲載している。クリックすると、「個人情報の収集や提供を受ける場合、その目的および当該事業の取扱担当者をお知らせした上、本人の同意に基づき、必要な範囲において実施します」など、六項目の「プライバシーポリシー(個人情報保護に関する方針)」が現れる。

 同センター情報事業担当職員の藤原孝公さんは「スタッフ自身、意識している以上に多くの個人情報に接していることを再確認できた。今後はNPOなども情報の保護、開示が求められる。一つの例として参考にしてもらえればという思いもあり、ホームページに明示した」と話す。

 同センターのプライバシーポリシーは、東京都社会福祉協議会の「個人情報保護規程」に基づいている。非営利団体が持つ規定としては、例えば神奈川県社協が九二年に作成した「民間社会福祉事業者が保有する個人情報の取扱いに関するガイドライン」など、自治体の個人情報保護条例制定(神奈川県は九〇年)と連動した取り組みが早くからあった。東京都社協の「規程」も、神奈川県などを参考にしながら作成したという。

 先駆的に取り組んできただけに、社協の担当者は、福祉など市民活動分野における個人情報保護のジレンマも感じているようだ。

 神奈川県社協企画課長の徳久和彦さんは「介護保険が導入され、施設介護ではあまり考慮しなかった問題が出てきた」という。「個人情報を自ら開示してでも、より良い介護サービスを受けたいという人がいる。複数の事業者や団体がサービスにかかわる場合、情報がある程度流通するのはやむを得ない側面もある。だがその際、誰が本人の了解をとるのか曖昧になっている。事業者が変わった場合にも、『保護』の観点からすると、サービスを受ける人の情報が途切れてしまう。現状では全部聞き直すように指示するが、聞く人によって、得られる情報は変わってくる。介護が必要な人をフォローするためには、情報を共有した方が良い面もあるのではないか」との指摘だ。

現場ではジレンマも 

 個人情報保護法案は表現・報道の自由を侵害する「メディア規制法案」だとして厳しい批判を浴びたが、NPOなど市民活動との関連については、ほとんど論議されなかったように思える。法案の対象事業者も「営利・非営利を問わず」というが、そもそも活動基盤や活動内容が違う営利企業とNPOを、同一の土俵で論じられるのだろうか。

 関西で活動するあるボランティアコーディネーターは、「守秘義務もあるし、まず本人の同意を得るのが原則だが」と前置きしつつ、次のような例を挙げる。

 「訪問ボランティアを紹介した家庭の中には、ケアマネージャー、ヘルパー、コーディネーター、保健師、他のボランティアなど地域で多くの人が見守り、そのことを互いに認識しているケースがある。本人が専門機関の職員に多くを語りたがらない場合、例えば『電話がつながらないが、どうしたのか』と他の機関から問い合わせがあった時に、ボランティアが活動を通して知り得たことを伝える場合もある。名前や住所はもちろん伝えないが、『ケース』として本人の同意を得ないまま共有することはよくあるし、そのことがより良い結果をもたらすようにも思える。もちろん、状況によっては、名前がわからなくても個人が特定されるかもしれない。その時に、『だから一切、出してはいけない』と言われたら、現場での対応はどうしたらいいのか」。こうした事例についても考慮する必要があるのではないか。

 個人情報を保護するのは当然だが、一方で公開したり、共有することによってより良い状況が生まれることも、市民活動ではあり得る。そのためには個人情報の「保護」を大前提としつつ、「本人の同意」が得られなかったり、得にくい場合の「公開・共有」のルールについても目を向ける必要があるだろう。今回提案された個人情報保護法案では、「人の生命、身体、財産の保護のために必要がある」「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある」場合で、「本人の同意を得るのが困難なとき」以外は情報の「第三者への提供」を禁じている。この条文が具体的に何を想定しているかは不明だが、少なくとも前記のような市民活動の現場について考慮したものではないだろう。

 別掲の事例集にあるように、日々の活動の中で個人情報の扱いをめぐって判断に迷ったり、失敗したケースは、多くのNPOが経験しているに違いない。練馬ぱそぼらんは、そうした中から「自分たちの活動に合ったルール」を創り出し、議論そのものが活動の質を磨き上げる役割も果たした。

 その経験は、個人情報保護の在り方は決してマニュアル通りの一律なものではなく、それぞれの活動分野や団体にとって、よりふさわしい仕組みやルールがあることを教えてくれる。市民の信頼感を高め、自らの活動を見直すためにも、個人情報保護の在り方を考える時期にきているのではないだろうか。

編集委員 増田宏幸

NPOも射程 個人情報保護法案
田島泰彦・上智大教授(憲法、メディア法)
 

個人情報保護法の対象となる「個人情報取扱事業者」の定義は、営利・非営利を問わず「個人情報データベース等を事業の用に供している者」となっている。民間で対象から除外されるのは、「個人情報の量や利用方法からみて権利を侵害する恐れが少ない」、「政令で定める者」だ。問題は「政令」だが、今のところ、基準になる個人情報量は五千件と言われている。

 データベースの定義も、コンピューターを使ったものとは限らない。検索できるシステムが付随していればよく、例えば名簿や電話帳も対象になる。NPOは活動の上で個人情報にかかわらざるを得ない。雇用関係やボランティア、寄付者、アンケート調査の対象者などを考えると意外に情報は蓄積されているもので、五千件という数字はかなり間口が広いともいえるのではないか。

 NPOも罰則のある義務規定の適用対象になるが、法律ができたからといって、すぐに具体的な影響が及ぶかどうかはわからない。ただ、公権力が権限を発動しようと思えば、いつでもできる射程に入っていることは間違いない。時代状況によって、政府や権力に批判的な市民運動や市民活動を、規制する方向で働く恐れがないとは言えない。

 個人情報保護は重要なことであり、きちんと対処できるようルールを用意しておくのはいいことだ。しかし、それはあくまでも自主的なレベルで、活動実態に合わせて考えるべきであり、画一的に、過剰に反応するなら、かえって活動を萎縮させることになるのではないか(談)。

文責=編集部   


「う〜ん、迷うなあ/しまった! 個人情報の扱い」
個人情報の取り扱いをめぐり、以下のようなケースが…。考えさせられるものあり、思わず笑ってしまうものあり。あなたの団体ではどうでしょうか。
委託事業の履歴書
【NPO支援センター】
緊急地域雇用対策事業の委託を受け、希望者を募集。採用しなかった人の履歴書を何となく保管していたところ、委託元の自治体から「他の事業のスタッフ採用で案内を出したいので、渡してほしい」と依頼が。断ったものの、自治体側は「出すのが当然」と思っていた様子。事前に了解を得るか、不要になった段階で廃棄するなど、ルールを決めておけばよかった。
守秘義務
【ボランティアセンター】
ボランティアコーディネーションのケースを一気にデータベース化する作業は、通常コーディネーターのみが行うが、業務量が多いため運営委員紹介のボランティアに入力を依頼。職員が横について一緒に作業し、情報保護についても信頼して進めることができた。その後データベースのメンテナンスが必要になり、また「ボランティアに入力してほしい」という要望が。ところが、この時には一部職員から「守秘義務を持つ職員の入力が原則」と反対意見が出て、依頼をとりやめた。前例と原則、職員間でも意見が分かれた。
会員リストの公開
【まちづくりNPO】
立ち上げ後、中核メンバーが固まったので外部に会員募集を始めた時のこと。会員が増えたため住所や電話番号が入ったリストを作成し、全員にあてて一斉に郵便で送った。ところが、まだ相互の信頼関係が確立されていなかったため、一部会員から注意を受けることに。
紙再利用の落とし穴
【ボランティアセンター】
紙の無駄をなくすべく、失敗したコピーの裏を再利用するのは「常識」。だが、その再利用紙には会員の住所録が印刷されていた。ある日、ファクスを送る時に間違って裏ページを送ってしまい……。
申し込み情報“流用”にクレーム
【NPO支援センター】
イベントの申し込みで受け取った住所・電話番号に、本人の了解なく別のアンケート調査を送ったところ、一部からクレームが。それ以降、当初目的と違うアンケートなどは、確認を取った人にのみ送ることした。

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Volo(ウォロ)は大阪ボランティア協会が発行する 市民活動総合情報誌であり、オピニオン誌です。
『月刊ボランティア』創刊1966年。『Volo(ウォロ)』と誌名を変更して2003年新創刊。一貫して「市民が主体的に関わることの大切さ」を伝えてきました。分野・セクターを越えた社会的課題に市民がいかに関わるかを独自のアプローチでタイムリーに発信しています。