No.366 / 2001年6月号 [前のページに戻る]

 ひとはさまざまな「ちがい」をもって生きている。「ちがい」は個性であり、ひとは本来、個性を豊かに備えている。個性あふれる多様な社会の運営には、ありのままの自分や、他のちがいを受けいれるためのコミュニケーションが不可欠だ。コミュニティの大小を問わず、互いのちがいを出し合って関係を構築するためのコミュニケーションが活発な状態は、弾力あるしなやかな社会へと成熟する。
 一方、対局にある画一的な社会の中では、あるべき規範が求められ、自分の個性を出しにくい。そこにあるのは、規範を保つための規律めいた指示であり、コミュニケーションは無用だ。問題解決能力がない弱くてもろい社会となる。
 ひとりひとりが当事者意識をもち、誰もが主役となれる市民社会の成熟は多様化なくしてありえない。そんな他とのちがいを受けとめて、自分らしく生きるための活動をすることで、多様な市民社会の育くみに貢献するグループが存在する。今回はセルフヘルプグループの活動とそれにかかわるひとの姿から、多様な市民社会のありようを標榜してみたい。

●<ユニークフェイス>

 「第一印象から決めていました!」は、ちょっと昔にはやったセリフ。でも、第一印象がよければ、その後もずっと良い関係でいられるだろうか?「大学生の対人関係の親密化過程に関する研究(四)」(山中・廣岡一九九四)では、第一印象がその後の人間関係に大きな影響力を与えるという調査結果をまとめている
 ひとりひとりがちがう顔。ちがっていてあたりまえの顔。しかし、病気や怪我が原因で顔に大きなあざや変形があるために、対人関係がうまくいかない、自分に自信が持てないといった悩みをもつ人たちがいる。セルフヘルプグループ「ユニークフェイス」(=固有の顔)が誕生したのは一九九九年のことだ。
 ユニークフェイスは機能的問題の有無にかかわらず、「疾患固有の容貌」(松本1999)をもつ当事者とその家族で構成され、会員同士の体験の共有や親睦、情報提供と社会的認知を目的に東京、大阪、中部、九州のグループを基本に活動を続けている。
 グループ発足は99年。毎日放送のドキュメンタリー番組「映像90〜異形の君へ」(1997年秋放映)を松本学さん(29歳)が偶然、見たことから始まった。裏番組のコマーシャルまちで変えたブラウン管に映し出された顔に松本さんは思わずくぎづけになった。自分と同じユニークフェイスの人が、自分のことを語っている。テレビには石井政之氏(東京代表)と藤井輝明氏(九州代表)が映っていた。すぐにテレビ局に電話をして連絡をとった。「正々堂々と顔をテーマにしてもいいんだ」。この番組を見た時の松本さんの感想だ。
 その後、松本さんと同じように番組に手紙を出した視聴者五〜六人で顔に関する勉強会を重ね、ジャーナリストである石井さんの『顔面漂流記』(1999年かもがわ出版)出版を機に、三人でユニークフェイスを立ち上げた。その後「ニュース23」などメディアに登場したこともあって、会員はわずか二年の間に140人に膨れ上がった。
 松本さんは現在京都の大学院で学ぶ学生だ。生まれつきのリンパ管腫のため、顔の左側が大きく腫れている。これまでに二回の手術を経験したが、「今もあんまり、変わっていない」。幼い頃より「おたふく風邪?」、「歯が痛いの?」と訪ねられたことは数知れず、不快と苦痛をやり過ごしてきた。鏡や写真が大嫌いだから服も買いに行けない。集合写真は少しでも腫れが目立たないよう常に「左側をむく工夫」をした。思春期には「恋愛の対象から外されているなあ」という疎外感。障害者でもない、健常者でもない隙間感。腫れた顔をもつ自分はいったい何者なのか。悶々と悩み続けた果てに訪れた、自分と同じちがいをもつ人との出会いだった。
 ユニークフェイスゆえの悩みを持つ人が作り出す空間の中で、集まった会員は、これまで誰にも語れなかった思いを少しずつ語り始めている。
 例えば、ある女性は単純性血管腫で顔や体に赤いあざが広がっている。四歳の時、友達に「手、腐ってるの?」と言われてあざを自覚した。小学校では、男子を中心にいじめが始まり、日常的に「汚い!」と言われ続けた。毎日の朝会では、自分のことを「殺す」と発表するクラスメイトを黙認する先生。人が信じられず、息を潜めて過ごした小、中学校時代に、彼女のコミュニケーションスキルは著しく低下した。大人になった今も初対面の人とのコミュニケーションは緊張と恐怖が伴う。
 他にも、親に聞かれないようにシャワーの中で声を殺して泣いた人、二年間、一歩も外に出れなかった人。「サービス業だから無理」と就職を断られた人。勇気を出して自分の悩みを友達に相談しても、「あなたより大変な状況の人はもっといる」と言われてしまう人も多かった。しかし例会では、「安心できる空間」の中で、閉じることで守ってきた自分をときはなして喋ることができる。その姿は、「孤立者が少数者へとなっていく」(上智大学 岡知史氏)道筋であり、このようなグループをみんなが待っていたことを物語っている。
 ユニークフェイスは2001年4月に総会を開き、NPO法人の認証手続を行うことを決定した。セルフヘルプ活動の中でわかちあってきた思いをどこに向けて行くのか。「優れた人間だけが生き残ればいいという考え方に抵抗していきたい」(石井氏)。「突き刺すような視線を変えるには、まずは実践しながら後ろ姿を見て欲しい」(藤井氏)。その道筋のひとつとしてNPO法人化を選択した。今後は、セルフヘルプ活動部門を継続しながら、専門家やメディアといった他者との対等な協働を基軸に、医療や治療のためのデータベース構築や情報提供、広報活動といった事業展開を考えている。既に看護学生を対象とした『顔とトラウマ』(かもがわ出版五月出版予定)という教科書の出版が決まっている。「最終的には、ひとりひとりの顔がちがうように、僕たちユニークフェイスもそのちがいのひとつになればいいと思っている」。(松本氏)ユニークフェイスの活動はまだ始まったばかりだ。

◆グループ連絡先◆  
ユニークフェイス東京  東京都足立東和郵便局留め 石井政之宛
ユニークフェイス大阪  大阪市平野西区郵便局留め 松本学 宛
ユニークフェイス中部・九州 熊本県熊本市九品寺4-24-1 
                     熊本大学医療技術短期大学部 藤井輝明宛
* お断り ユニークフェイスでは、醜形恐怖(特に顔に疾患、外傷がなくても自分の顔を特徴的、醜い、不格好と思い込み、日常生活に支障が出ること)の方を対象にはしておりません。また、病院、医院の紹介はしていません。
(ユニークフェイスhttp://www.uniqueface.org )


(残念ながらインターネットではここまでです。あとは本誌でみてください!)


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