Vマーク青 月刊ボランティア〜Internet Edition〜
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No.362 / 2001年1・2月合併号

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No.362この人に写真
この人に ...No.170
● この人に  
新年号特別インタビュー 落語家 桂 三枝(かつら さんし) さん  ● 

ボランティア活動は
人知れずやる
これが私のスタイルです


震災時の体験から生まれた「兵庫寄席」

 阪神・淡路大震災の直後、吉本興業でも復興に協力しようということになり、友人のクルーザーを借りて海から神戸市へ義援金を届けに行きました。陸路はズタズタの状態でしたからね。港に近づくと、車がプカプカ浮かんでおり、倒壊した建物も見える。被害の甚大さが実感として迫ってきて呆然としました。

 震災からの復興が進むなか、友人で、関西大学の後輩でもある南部靖之氏(パソナ・グループ代表)から、被災者を励ましたいとの相談を受けました。そこで、彼が雇用創出と産業復興を目的につくった商業施設「神戸ハーバー・サーカス」の海岸通劇場で寄席をやることにしました。震災後、半年ぐらい経っていましたが、仮設住宅に住んでおられた被災者の方たちを優先的にご招待し、大変喜んでいただきました。笑いに飢えておられたのでしょうね。私の妹弟子の桂あやめも震災で両親を亡くしたのですが舞台に立ち、一生懸命に笑いをとりました。楽屋では、とても喜ばれたことや、あやめの健気さに、スタッフも出演者もみんな泣いておりましたね。人間というのは強いというのか何というのか、泣いたり笑ったりしながら、あんな酷い震災も乗り切るんですね。

 そんな経験もあって、ぼくが呼びかけて始まったのが”兵庫寄席“です。昔は、神戸にも多聞座や神戸松竹座があり、寄席が盛んでした。それで被災した方々の”心のケア“にもなるだろうと、貝原知事の賛同も得て始めたのが兵庫寄席です。始めたのが震災の翌年ですから、もう五年になります。毎月一回、兵庫県のあちらこちらに行きます。規模は五百人程度ですが、テレビでも放映されていますので、多くの方にも見ていただいていると思います。でも、ぼくの希望としては、本当は寄席の定席としてやりたい。というのは、やはり震災のときに笑いがすごいパワーになると感じましたからね。

 笑うことは、人間にとって何物にも代え難い喜びで、明日への生きるエネルギーになっていく。医学的にも、笑うことによって免疫力が高まり、癌細胞の増殖さえ抑えることがわかってきたということです。ぼくはその笑いを生業にしているわけですから、本当にこの仕事をしていてよかったと思っています。

高齢者の落語ボランティア

 大阪でも五年前から、ぼくが提案して府の老人大学で落語講座をさせてもらっています。うちの弟子が教えて、講座修了時にはぼくが芸名を付けてあげるんです。受講者それぞれの趣味や経歴を参考にしながら、名前をつけるのが非常に面白い。七十過ぎのお年寄で、英会話やパソコン、インターネットが趣味だという方もおられ、そういう人には「浪花亭マウス」とか「○○亭メール」などと付けてあげるんです(笑)。

 実はぼくも、パソコンもインターネットもやっていますし、自分のホームページも持っています。ホームページで、こちらから出題して小話などを募集しているのですが、面白い作品をEメールで送ってくれる人が何人もいらっしゃるんですよ。朝日放送の深夜ラジオでも「お笑いマイレージ」というコーナーで同じようなことをやっていまして、朝日新聞では「笑ウインドウ」というページを担当させていただいています。とにかくぼくは「面白いことを考える人」をつくるということに大変興味があるんです。

 私も現在五十七歳ですから、自分自身の高齢期を見据えながら、仕事もボランティアもやっていかなければならないと思っています。やはりこれからの高齢社会では、心のケアという面で、同じ年代の者同士が励まし合う必要があると思うんです。そういう意味では高齢者が高齢者を笑わせてこそ、本物の心のケアです。月に何回かは、受講生有志がボランティアで老人ホームなどを慰問しておられるそうです。

 お年寄りたちは、自分たちの生活をネタにして創作落語をつくったり、結構みんな楽しそうに、また元気にやっておられるそうですよ。受講生は二十五人ほどで、女性もたくさんいらっしゃるということです。

 そういう、落語によるボランティア活動をする人をつくるお手伝いをさせていただいています。これなら、ぼく自身はあまり表に出なくてもいいし、とても楽しんでもらっているみたいで、大阪府に提案して本当に良かったと思っています。

 どうもぼくは、日本人的過ぎるのかもしれませんが、ボランティア活動や社会貢献というのは、「人知れずやるもの」という思いが強いのです。芸人が個人名を出して活動すると、売名行為と勘ぐる人もいますしね。そのあたりは本当に難しいですよ。

政治家だけに任せっきりにしない

 大震災と地下鉄サリン事件があった年に、お誘いもありましたので一時、私が政界に出て何かお役に立てることがあるかな…と思ったりしたこともありました。しかし、それよりも噺家・大衆芸人として日本国中を回り、皆さんに喜んでいただくほうが自分に似合っていると思ってやめました。

 ぼくは、あっちこっちの町おこしやナントカ大使などで招かれることも多いのですが、そういうのはできるかぎり引き受けるようにしています。それが、大衆芸人としてのぼくのポリシーの一つなんです。

 今、やっと日本でもボランティアやNPO、市民活動などという言葉が注目を浴びていますが、ぼくはむしろ遅かったな…という感じがありますね。海外、例えば中国ではリタイアした人たちが町の清掃から交通整理までやっていましたし、ヨーロッパでも事情は同じです。日本でもそういう傾向が出てくるのは当然だと思います。 結局、自分たちの国、今住んでいる地域を、政治家だけに任せっきりにしていてはダメだと思うんです。市民自らが、自分たちが住んでいる地域のために活動し、より住みよいところに変えていく必要がある。そういう意味でも、みんながそれぞれ、自分ができることを自発的にやっていただきたいですね。

(常任運営委員 吐山継彦)

●桂三枝さんプロフィール●

1943年7月16日生まれ、大阪府堺市出身。関西大学商学部時代に、落語研究会で活躍。1966年、桂小文枝(現 文枝)に弟子入り。タレント活動の一方、創作落語「ゴルフ夜明け前」では芸術祭大賞を受けるなど、数々の創作落語を発表。これまでに「新婚さんいらしゃい」など多数のレギュラー番組を手がける。


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