○知的障害者の制度利用を、4つの視点で考える
この学習会のテーマは、「知的障害者の立場から障害者自立支援法を考える」ということですが、実際に知的障害者がここで自立支援法を語ることは難しいでしょう。
そういうことも考えると、知的障害者にとっての制度利用を考えるときは、4つの視点を意識する必要があります。その4つとは、「制度実施」「通訳・伝達」「代弁」「提案」です。
○マスコミなどでよく指摘されるのは、制度実施の視点
「制度実施」の問題点については、マスコミなどでもよく取り上げられます。実施の仕方にこんな問題があるとか、利用者の1割負担が生活を圧迫しているとか、サービス提供側にとってもサービスの単価が非常に低くてやっていけないとか、そういったことです。
「通訳・伝達」というのは、制度の内容や利用の仕方を、当事者が理解できているかどうか、ということです。
「代弁」は、制度にはどんな問題があるか、他に何か必要なことがないか、といったことを、当事者に代わって明らかにし訴えていくことです。
「提案」は、制度をどう使えば使いやすいのかを提案していくことです。
あとの3つの視点は、「制度実施」ほどには、一般には意識されていないと思います。
しかし、実際には、自立支援法は、ほとんどの知的障害者には「わからない」ものです。おそらく多くの場合、「なんだかよくわからないが、お金を払わないといけなくなった」という理解でしょう。
○知的障害者に制度をわかってもらうための工夫はされているか?
知的障害者向けに大阪府が作成したパンフレットを用意しましたので、みてください。一般向けのパンフレットに、ルビを振っただけですね。表現は、「市町村の委託を受けた相談支援事業者」「大阪府知事に対して審査請求」など、一般向けのままです。
これでは、肝心の内容は、知的障害者自身にはなかなかわかりません。それでも大阪府ではルビをふったパンフレットを作っているだけましで、それさえないところもたくさんあります。
私が所属する大阪知的障害者育成会では、イラストや分かりやすい表現をしようと試みたパンフレットをつくりましたので、比較してください。
知的障害者に分かりやすい表現とはどんなものか?
ルビはもちろんですが、わかりやすい言葉で短い文章にすること、文節で区切った「分かち書き」をすること、などがあります。
言葉のコミュニケーションが困難な人には、ピクトグラム(絵や記号)も有効です。主なものは、JIS規格で決まっています。
分かりやすく伝えると正確さがそこなわれやすいので、その折り合いが難しいのですが。
また、本人が、表現を見たり読んだりして理解することが難しい場合は、信頼する人から読んでもらったり伝えてもらったりすることも必要です。
自立支援法導入前に、知的障害者のための学習会などはどれだけあったでしょうか。
これらのことを、もちろん知的障害者の支援組織ではやっているわけですが、やはり一般にはそれほど意識されていないと思います。
この問題は、自立支援法の問題というのではなく、それ以前からずっとあった問題です。
○障害者自立支援法以前からある問題
自立支援法の問題なのか、それ以前からの問題なのか、また自立支援法が施行されたあとに生じた問題なのか。この整理が必要です。これは、東洋大学の小沢先生がよく説明されていることでもあります。
障害者福祉の過去をみると、大きな法改正が近年2回ありました。ひとつは、平成2年の改正です。それ以前は、施設に入所することしか書いていなかったが、このとき初めて「在宅」が明記されました。ホームヘルプサービスやデイサービスが、法の中で位置づけられたのです。
もうひとつの大改正は、平成12年に成立し、平成15年から施行された「支援費制度」です。「措置から契約へ」がうたわれ、障害者自身の決定が重視され、在宅サービスが中心におかれました。
しかし実際は、施設サービスに重点がおかれたままで、在宅サービスの提供は不十分でした。
「在宅サービスの供給量が不十分」という問題は、この頃から続いている遅れがいまだに尾を引くものといえます。
他にも、自立支援法以前からの問題がいくつもあります。
たとえば、支援費制度は「措置から契約へ」ですから、サービスの利用者が契約内容を理解し、サインして利用することが前提です。
しかし、これが知的障害者にとっては難しい。契約が原則になったのに、契約を支援する制度はありません。
それから、支援費制度では、市町村で障害程度区分や認定などを決めるようになり、この頃から市町村の職員の力量も問われています。
行政の縦割り組織では、就労や住宅などの問題は他部門の管轄になってしまう。結婚や親の介護支援の問題も抜け落ちている。
知的障害の定義自体、法律では定義されていません。身体障害や精神障害はあるのに、知的障害にはなく、あいまいなままです。
そもそも「障害者」の範囲も、たとえば難病の方の場合、病状が進むと身体障害になるが、ひどくならないと障害者には位置づけられない。学習障害や高度発達障害も、今は対象外になっている。「どういった状態の人を支援するか」ということは置いてきぼりになっています。
また、「障害児」の認定は、成長していく段階での支援の難しさがあります。
自立支援法は、これらの問題を積み残したままスタートしてしまったのです。
○自立支援法そのものの問題
自立支援法そのものの問題は、まず「説明責任」です。
それは、まず、「なぜこんなに早く変えるの?」ということです。
次に、応能負担つまり所得に応じた負担から、定率負担に変えたこと。
それから、サービスの提供料を日割りにしたこと。これまでは月単位でサービス提供者に支払われていたのが、日割りになりました。でもサービス提供者の職員人件費は、基本は月給制です。サービス提供者の収支は、ひどく不安定になってしまいます。
サービス利用は、今までの障害者手帳とは別に、「障害程度区分」にもとづくことになりました。これは、市町村で区分することになっているものですが、障害程度区分が合わないと、今まで利用していたサービスが受けられなくなったということもあります。
また、今まで必ず国が負担・補助するはずだったサービスが、そうではなくなった。それが、「地域生活支援事業」です。これは、「国の予算の範囲内で」「1/2以内を補助」することになっていますから、たとえばガイドヘルプサービスなどは自治体がどれだけ負担できるかで利用が制限されることになります。
○自立支援法施行後の問題
国から市町村へは次から次に新通達が発信され、自立支援法関係の資料を全部積むと机から天井まで届くくらいあるそうです。これだけあると、担当者の制度理解が追いつきません。
そして、サービス提供事業所に支払われる報酬額は、実施してみたら多くは従来よりも下がりました。
1日の単価は、もともと月単位の措置費であったものを1か月の利用日22日で割って算出されています。しかし実際には、祝日やお盆休み、正月休みもあるし、2月なども22日の稼動に足りません。だから、サービス提供日全部に従来どおり利用者がいたとしても、1割減くらいになります。
日割りなので、利用者が休んだら、その日数分がさらに減ります。風邪がはやったりしたら、大赤字です。
結果、報酬額が2割くらい減った事業所が続出しました。
これは、基準単価の設定ミスでしょう。
補填などの改善策も出ていますが、大きな問題点のひとつです。
また、自立支援法では、「地域格差をなくす」はずでした。
しかし、実際には地域生活支援事業は自治体の裁量になったので、大きな差が出ています。たとえば、ガイドヘルパーの1時間単価は4200円から3000円や1200円のところがあります。
格差が大きくなり、事業所の撤退もみられます。
グループホームなども、都心にはあるが地域ではひとつもないところも多いです。
それから、利用抑制。払える分しか利用しない、という問題です。
また、3月にまとまる障害福祉計画にもとづいていろいろな施策が実行されることになっているが、障害福祉に関しては、さらに上位に障害基本計画もあります。
障害福祉計画が本当に計画通り実行されるか、という疑問もあります。
○自立支援法に対する態度を分類すると・・・
自立支援法に対しては、費用負担に対して好意的か否定的かの軸と、変化に対して肯定的か否定的かの軸の4象限で、態度分布モデルができます。
費用負担自体はやむをえないが、制度がコロコロ変わることを否定的に捉えている人は、「不安」でしょう。
制度を変えるべきでなく、費用負担もできるだけ無料をベースにするべきという人は、「怒り」の態度でしょう。
制度が変わるのはやむを得ない、または変わってもよいと思っているが、「私だけは払いたくない、どうしたら安く済むか」という、「抜け駆け」の態度もあります。事業所でも、自分のところさえ何とかなれば・・・ということもあるかもしれません。
制度を変えることは仕方がないし、費用負担も必要だと思っている場合は、それでも変えるなら制度をきちんと整理してほしいし、ちゃんとした説明をするべきだということになります。この態度を、「展望」と呼んでいます。
もうひとつ、「硬直」とでもいうべき態度があります。これは、何が何だかさっぱり分からない、というものです。
たとえば、市役所から4月に届いた手紙を、9月になってから封も開けずに「これは何でしょうか」と相談にこられた人がいるそうです。本当に、何も分からない、ということだと思います。
さて、制度についての相談先は、目的によっていろいろです。
制度を知りたいなら地元の市役所・町村役場や相談支援事業者です。この事業者は、府内で100か所以上あります。
制度の活用を考える場合は、その相談支援事業者や相談員になります。ばらつきがありますから、自分の相談によく乗ってくれそうなところを選ぶといいでしょう。
制度改正を訴えるなら、厚生労働省、府・市町村になります。障害者団体を通じて働きかけるのも有効でしょう。
○申請主義から抜け落ちてしまう障害者
大きな問題として残っているのは、制度の谷間で身動きが取れない人々への支援をどうするか、ということです。
今、公的な支援制度は申請主義であり、契約制度が中心です。申請して、契約をしなければ、サービスを受けることができません。
でも自分で申請し契約することから抜け落ちてしまう障害者は、知的障害や精神障害ではすごく多いです。
それを救済するために、知的障害者福祉法では、「措置」つまり行政が職務権限で制度を「利用させる」やり方が残っています。しかし、措置が行われることは少なく、市町村の担当者や支援員でも知らない人が少なくないように思います。
○何をもって「知的障害」とするのか?
これは自立支援法以前からある問題ですが、今回の法改正でも知的障害者認定が限定的です。
知的障害の出現率は、人口の1〜2.5パーセントと言われています。すなわち、日本の人口から言うと、100万人〜200万人いるはずです。
しかし、「療育手帳」を持っている人は、40数万人です。つまり、把握されていない潜在ニーズがかなりあるはずなので、本当はこの潜在ニーズを調べないと、予算も出せないのです。
身体障害者には法的な定義があり、判定表があって障害者手帳が発行されますが、知的障害者は定義がありません。じゃあ療育手帳はどういうときに発行されるかというと、現在は25年前に当時の厚生省の研究チームで決めた3要件を満たすと発行されます。
3要件とは、まず、18歳くらいまでの発達期に発症していることです。次に、知能の低下。知能検査で、IQ70か75よりも低いことです。それから、社会的に何らかの支援を必要としている、社会的不適応の状況があること。この3つが揃ったら、療育手帳が出されて、知的障害に対する公的なサービスを受けることができます。
これよりもさらに以前は、IQ75より低いかどうかだけで決めていました。しかし、IQが低くても普通に社会生活を営んでいる人もいるし、サービスが必要ない人もいるので、先の3要件になったのです。
3要件が揃わず障害者と認められないケースとしては、たとえば成人後の交通事故等の後遺症でIQが低下したとか、脳源性の病気などによる高次脳機能障害があります。
高機能自閉症なども、社会的不適応の状態であっても、IQは高いので、3要件が揃いません。
3要件が揃わなくても公的な支援が必要な人は、こう考えると多く残されています。これは、本来自立支援法でカバーしていくべき問題です。
○当面考えたい4つの問題
当面の課題は、4つです。
ひとつは、「誰を障害者と認定するのか」ということです。
さきほども触れた、高次脳機能障害者や、軽度障害者、発達障害者などをどう考えるか。
また孤立やいじめ、ひきこもり、消費被害者などはどうなのか。累犯やホームレスの方のなかには、相当数の軽度知的障害の人がいるとも言われます。
2つめは、認定する障害者に対して、「どの程度のサービスを用意するのか」です。これは、財政論的な視点からも考える必要があります。
また、どのくらいのサービスを提供するのかという事業実施計画としての障害福祉計画を、2007年3月に全市町村、全都道府県で出さなければならないということで、作られました。ここに各地域の施策が、数値目標の提示を含めて出されたことになるのですが、このような計画は、市町村の約半数はこれまで作ったことがなかったのです。
だから、実証性と実効性は、これから見守っていく必要があるでしょう。
ケアマネジメントはどう考えるのでしょうか?
ケアマネジメントは、介護保険で制度化され、自立支援法でも制定されました。
でも、対象が限定されていて、広がりにくい。一人ひとりのニーズに合わせたサービス展開という点でも限界があります。
知的障害、精神障害の方には、身体障害とまったく違うサービスの展開があるはずです。
たとえば、1人で歩くことはできても、突発的な行動をするなどが考えられるため、一緒にいる人が必要、ということがあります。10月から、そのような外出時の介護として「行動援護」サービスができます。こんなふうな、新しいサービスをどうつくるか、どう考えるか。
いま、障害者サービスで生計を立てられるようなビジネスモデルは、まだありません。
職員が生活でき、事業所は事業を継続していけるような、ビジネスモデルがないのです。これをつくっていかないといけません。
対象者、サービスの内容が決まったとしても、その費用をどう分担するのかという問題があります。これが3つめの課題です。
障害者自立支援法は、それ以前の支援費制度での財政破綻から生まれたともいえます。しかし、OECD加盟国のなかで、日本の障害者サービス予算は、極端に少ないです。予算総額そのものが適正かどうか、という視点がまずあります。
それから、利用者負担をどうするか。これは、障害者の所得保障を前提としないとけませんから、何らかの手立ても必要です。
介護保険のサービスを障害者に拡大していくという議論もあります。そうなるとしたら、若い障害者もサービスの対象となるように、介護保険の加入年齢を引き下げるのでしょうか。これには、賛否両論があり、政府の結論も出ていません。
最後に、国際社会との調整です。
去年の12月13日に、国連で障害者権利条約が採択されました。日本も、国内法が条約にかなっているか点検した上で署名批准しますから、批准のためには国内法の整備が必要です。
自立支援法も、制度体系全体の大きな見直しが必要なはずです。
他の法制度では、サービスの「契約」を前提とするためにつくられた成年後見制度も、不利益な契約を取り消すことを定めていくなど、見直しが必要でしょう。
「知的障害者の権利擁護システム」は、制度はあるが使いづらい面がありますので、研究されています。
千葉県ではいわゆる「差別禁止条例」が今年から施行され、住宅、雇用などの差別が禁止されます。
児童・高齢者の虐待防止法はできていますが、障害者にはまだありません。障害者虐待防止法案の動向も、みていくところでしょう。
障害者権利条約にも絡んで、障害者に関する制度体系の全体像をどうつくっていくか。わたしたちみんなが、これから考えていかないといけないことではないでしょうか。
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