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関西発企業市民活動レポート 2

リンクアップJr. 関西発企業市民活動レポート 2

神戸発メセナ活動 ―広がるメセナの可能性 ―

異国情緒溢れる、神戸・ポートピアアイランドの中心部に本社を置くTOA株式会社は、業務用音響機器と映像機器の専門メーカー。音のプロフェッショナルとして社会のあらゆる公共空間の音づくりを行う一方、監視用カメラを中心としたセキュリティシステムでも、同社の技術が人々の安全を守るために活躍しています。いまや地元神戸だけでなく日本各地・海外に事業展開しています
同社のメセナ活動は、本業の延長線上のメセナとして、自社のリソースを最大限に生かしているところが特徴です。こうした新しい形のメセナのありかたについて、担当されて7年目となる同社・経営戦略室広報課の吉村真也氏にお話を伺いました。
(取材日 2003年7月22日)

● 音響機材メーカーとしてのメセナ

―ジーベックが活動のコア

ジーベックとは、1989年TOA本社ビルに併設されたジーベックホール・スタジオ・カフェなどの総称で、運営は同社子会社・株式会社ジーベックが行っています。その中心となるのがジーベックホールです。ハイクオリティな音響システムが完備され、300名収容可能。開設以来‘人・音・社会の関係’をコンセプトに年12回程度の自主イベントを中心に活動してきました。その音響の素晴しさは、まさに目の前での生演奏を聞いているのと幾分も変わりません。目を閉じて耳を傾けると、今まで気付かなかった音1つ1つの特徴を全身で感じることができます。このホールを中心にジーベックから、音の素晴しさや可能性を広く社会に発信しています。

      
神戸ポートピアランドにあるTOA本社とジーベックホール ハイクオリティな音響システムが完備され、さまざまなイベントが行なわれるジーベックホール内部
   
―本業を補完する活動≒メセナ
同社の活動は当初から「メセナ」を明確に意識して行われていたものではありませんでした。本業を補完する活動の一環として、音の可能性を探るためにジーベックホールを中心に音についての様々な催しを行い、結果としてそれがメセナ活動になっていたとのことです。
―資金提供よりも非資金型
よって基本は、単に資金提供をするだけでなく、音響機材など自社の有力なリソースを最大限に生かした活動が行なわれています。もちろん資金(経費)はゼロではありませんが、基本的に人・モノでの社会貢献ということが特色です。このような音響機材メーカーだからこそできる活動―それは必然的に独自性を発揮し継続性あるものとなります。また、近年の不況により資金的メセナ活動の見直しが問われる中、このような非資金的活動は今後も注目を増すことでしょう。
「こういった文化活動は、『三方一両得』といって、アーティスト・企業・観客の3者が同じように得るものでなければ長続きしないと思うのです。」という吉村さん。持続可能な社会的価値を生み出している理由がまたここにもありました。
● ユニークで多種多様なメセナ活動
―ジーベックホールでの音文化啓蒙活動
ホール開設当初より実験的・前衛的と称されるような催しが多く、民族楽器などのジャンルも得意としてきました。現在は、89年ホール開設とともにスタートした企画『アジアの音楽シリーズ』や、『サウンドルーペ・シリーズ』という音にまつわる活動を取り上げるサロン形式のワークショップなど、様々な音に出会える催しが数多く行われています。
こうした活動が評価され、95年メセナ大賞を受賞(社団法人企業メセナ協議会主催)。本業の延長線上の活動が新しい形のメセナとして賞賛されました。
これにより、現代アートの一分野での地位を確立し、世界的なアーティストからも高い評価を得たのです。

しかし、芸術的なことに関心が深い国内外のメディア・社員からの評価が高まるその一方で、商業ベースに沿った作品内容ではないが故に観客を限定してしまう可能性があるということと、常に向き合わなくてはいけませんでした。
もっとたくさんの人に、気軽にホールに来て欲しい。特に、未来を担う子どもたちに。その想いから、99年、新コンセプトとして‘音を創る、学ぶ、楽しむ’を設定。今までの活動は継続しつつも、あらたに教育という市場をターゲットに活動の枠を広げていきました。時はちょうど学習指導要領の改訂で音楽の授業に民族音楽を取り入れることが必須に。そこで無料ワークショップ『小中学生のための世界の民族楽器紹介シリーズ』を企画・開催。10年間の実績・ノウハウのある民族音楽を、生徒・児童向けのワークショップにアレンジして提供しました。?整った環境(ホール)で最高レベルの音楽に触れ、体験できる″このワークショップは、子どもたちにとって、また民族音楽の教材不足に悩む教員にとっても、これまでにない素晴しい機会となりました。

ただし、初めから順調だったわけではなく、民間企業の活動ゆえに当初の反応には厳しいものもあったそうです。しかし、提供するプログラムのクオリティの高さ、TOAの企業として未来を担う子どもたちに本物の音楽に触れる機会を持って欲しいという想い、そして担当者の積極的な広報が実り、地域を中心に口コミなどから少しずつ認知されるようになりました。現在までに計18回、のべ20校、約1500人の児童と300人の教員が参加しています。
「やはり一番嬉しいのは、実際にワークショップに参加して頂いた方からのお言葉です。『どんなCDやビデオでも本物の生の迫力の前では無力。児童を連れてきて良かった』『TOAってスピーカー屋さんだとは知っていたが、こんな素晴しい活動をしている企業とは知らなかった。イメージが変わった。』などたくさんのご感想を頂きました。」と吉村さんは笑顔と共にお話しくださいました。

この活動は、企業としての2つの異なる発想の利害が一致して生まれました。1つは、子ども達にもっと本物の音楽に触れる機会を提供する、長期的展望でのTOAファンを作るなどの「社会貢献的発想」。そしてもう1つは、学校という本業(音響機材)にとって重要な市場に直接的に同社を印象付けるという「営業的発想」です。
 この企画の二次活用として、学校教材業者などの営業担当者に吉村さん自身が同行して顧客にこのメセナ活動をPRし、営業のアプローチ・ツールとして活用することもあるとのこと。以前、吉村さんご自身も営業を担当されていたからこそ、どちらの立場もわかり、自ら本業とメセナの架け橋となってTOAの総合的なイメージアップの向上を担われているのだと感じました。
TOAのメセナ活動について、お話しいただいた、同社・広報課 吉村氏 「小中学生のための世界の民族楽器紹介シリーズ」のワークショップの様子
―こんなところにもTOAのメセナが
毎年クリスマスシーズンになると、神戸の街をひときわ美しく輝かせる神戸ルミナリエ。95年阪神・淡路大震災後、神戸の復興と被災者の鎮魂を願って始まりました。あまり知られていないかもしれませんが、その神戸ルミナリエでも同社の音響演出&安全管理用監視カメラが提供されています。音響のソフトはオリジナル楽曲を毎年製作。ハードの提供はもちろん、ルミナリエ開催期間中は、毎晩現場にて音響の専任スタッフがオペレートを担当されているそうです。人出に応じて微妙な音量調整を行うなど、まさに黒子としてのTOAのみなさんの活躍があって、安全に美しい光と音の芸術を堪能することができるというわけです。

またもうひとつの珍しい活動として、丹波の森国際音楽祭『シューベルティアーデたんば』への協力があります。これは兵庫県丹波地区のまちおこしの一環として、行政・市民・企業が一体となって各町村で音楽会を開催しているものです。同社は音響機材と専任スタッフという‘人・モノ’で協力しています。
「信じられない場所でのコンサートですよ。お寺でクラシック音楽を演奏するなんてあたりまえ。田んぼの真ん中でテノール歌手が歌い、その横をトラクターが通りすぎていきます。電源が無い会場もありますから、発電機だって使用します。準備は大変ですが、それぞれの町で個性があってとても面白いです。」と吉村さん。またこのような活動は、「本来の社会貢献的価値以外にも、付加価値を見出すべき」とも。活動を通してキーマン(地元有力者)とのリレーションができれば、それがキーマンへの同社の認知度・イメージアップになり、本業の営業活動へのつながりも期待できます。またそのリレーションを社内広報することで間接的に社内理解の促進にもプラスになるとのことです。
―「トライやるウイーク」での活動
また、兵庫県では98年より、県下の全公立中学2年生が特定の一週間、地域の企業や社会施設で社会体験を行う「トライやるウィーク」という行事があります。同社でもこの事業開始初年度から近隣の港島中学校の生徒を受け入れ、ジーベックホールでの音づくり体験プログラムを実施しています。 
中学生に一週間、プロの音楽家と一緒にプロとしてコンサートを企画・運営させるのです。コンサートでの演奏はもちろん、チラシ作りと配布、会場設営などの裏方も子供達による手作りで行います。昨年には、近隣の病院や老人福祉施設で出張コンサートを開催しました。また今年は、現代音楽にも挑戦しました。
 「教育者でない企業人が一週間も生徒たちを預かるのは、はっきり言って大変です。生徒たちの多くは、どれだけ譜面どおりに正しく演奏できたかで音楽を評価されると感じています。でも、それだけが音楽じゃないことを伝えたい。自分たちは音楽で何ができるのか、自分たちの演奏でも人の心を動かすことができるんだということを、実体験として感じて欲しいんです。」と語る吉村さんからはこれまでの苦労と熱意が伝わってきました。
一週間生徒たちが同社へ「登校」してくるということもあり、通常よりもこの活動に関してはインナープロモーションを強化しているとのことです。生徒たちが各部署にチラシを配りに行ったり、社員向けランチタイムコンサートを開催したり。これは子どもたちにプロとして活動させることによって自主性を持たせる、みんなで作り上げる喜びを与えるとともに、TOA社内に対しても関係部署だけで完結してしまいがちな活動を全社へ理解促進させ、参画意識の向上につながるようにという思いで取り組まれています。
● 今後のTOAのメセナ活動
―メセナでなにができるかという発想
吉村さんは、「企業の社会貢献といえば、やはり環境や福祉など社会的なテーマに多くの関心が向いています。文化というものはそれらと切り離されがちですが、社会的テーマに対して、文化が果たせる役割を模索していくことが必要だと思うのです。文化も環境・福祉とリンクさせて考えていきたい。」とおっしゃっていました。
―社外PR・マスメディアへのアプローチ
社外・マスメディアへの積極的な広報は、TOAがどんな企業かということを社会にPRするとともに、社内広報の強化にもなります。メディアによって社員が自社の活動を知る、そのことで活動の社会的価値を知り、意識向上にもつながるのです。また、メディアで取り上げられることはその活動が社会的に認めれられた証の一つ。これが次の活動のステップアップ・原動力にもなるのです
―神戸を拠点に、少ない資源でも効果的な活動を
「地元兵庫・神戸以外での活動の予定は?」との問いかけには「例えば東京で同じ事をしたら確かにパフォーマンスとしては大きいでしょう。しかし同じだけ費用がかかるのです。当社のメセナは自社のリソースを使い、少ない資源で最大限のリターン・PRというのが基本。どうしても、地元の兵庫・神戸が中心の活動になるでしょうね。ただ、社内外から東京での活動を望む声がありますし、私自身も魅力を感じています。機会があれば、ぜひチャレンジしてみたいですね。」とのこと。これからも本業とメセナ活動をあわせてTOAという企業の社会的価値を高めていくこと、ブランドイメージを構築していくことを目指していきます。
● 「企業人」として、「メセナ担当者」として
どの活動も自社の利点を生かす工夫がなされています。こうした活動の数々を企画し、展開されてきた担当の吉村さんですが、「私はサラリーマンですから」と、前置きされたうえで、「このような活動は、担当者の熱意が大切ではありますが、個人的な想いだけでは進められないものです。企業として、社員として常に会社にとってプラスになることを考えなければなりません。芸術支援の精神と企業の利益、個人的な想いとサラリーマンとしての使命、現場担当者の意見と会社の意見・・・。意見が相反した場合でも、そのどちらかだけに過度に傾倒しては、活動の本質を見失うことになりかねません。その都度状況判断をし、バランスをとることが重要ですね。ある意味、板ばさみの苦悩とでも言いましょうか・・・。しかし、個人でこんな大きな活動は絶対にできません。企業としてだからこそできるもの。それを担当者として自分の意見を持ちながら仕事としてできることはとても幸せなことです。楽しみながらこの仕事をしていきたいです。もちろん企業として活動しているからには、担当者が代わったらなくなってしまうような活動ではなく、社の活動として定着させるためにも社内外への積極的PRなどはますます重要となります。」と語っていただきました。裏事情はいろいろあれど、「好きな仕事だからこそ、いろいろあることを楽しみましょう。」という吉村さんとTOAさんの企業としてのバランス感覚が、ユニークな活動を支えているのだと感じました。
 

◆お問合せ先(事務局
フィランソロピー・リンクアップ・フォーラム事務局
 (大阪ボランティア協会 企業市民活動推進センター内)
TEL 06-6465-8392 E-mail ccc@osakavol.org